第2話 探知


「ノイリ」


 自分の少し先を飛ぶ彼女に、オートが声を掛ける。あっけらかんとした声で、ノイリは少年の方を向く。


「なぁに?」


「今って、魔獣探してんのか?」


「そだよ?」


 ノイリが屈託のない笑みを浮かべた。躊躇もなく言い放ったものだから、オートは呆気に取られた。


「魔獣の居る場所が分かるんじゃないのか?」


「分かるけれど、わかんない」


「なんだそりゃ」


 彼女の曖昧な物言いに、少年は苦笑いを浮かべた。


「次元に居るのは分かってるから、後は細かい場所をね」


 オートが話を詳しく聞いたところ、彼女は魔獣の気配を感じられるという事実が発覚した。


 ここにいる二人以外の魔力を探知して、方位磁石のように何となく位置が分かる技能だ。訓練すれば少年にも取得が可能らしいが、それよりも戦闘能力の向上を優先にして欲しいという。


 要するに次元における役割分担だ。少年を戦闘に特化させて、ノイリの参戦機会を減らす役目を担うのが彼女の狙いらしい。


 攻撃手段を使わせれば、それだけ魔力は減ってしまう。オートが今すべきことは、彼女の代わりに戦い続けるだけだ。


「魔力が戻ったら、どうすんだ?」


 ふと頭に浮かんだ台詞を、少年はそのまま口に出していた。


 彼女が完全に戦えるようになったら、オートの役目は終わりになってしまう。


 そうなった時、ノイリはどうするのだろうか。少年の問いに、彼女は満面の笑みを浮かべた。


「あたしの部下にしたげよっか?」


 少年は黙って首を左右に振った。


 だって、もう部下みたいなものなんじゃないか。オートがそう言いかけた時、ノイリは素早い動きで地平線の先へと目を向けた。


「……あ、来るね」


 彼女の声色が変化したから、オートも同じ方向へと視線を向ける。


 グレーの空と、岩だらけの荒野。横二分割の国旗ような地平線を、二人は直立のまま睨みつける。


 暫くすると、風船のような影が彼らの方へと近づいて来ているのが見える。


 影はやがて風船から、気球のような大きさに変わり。その全身を露わにした時に、正体が判明した。


 透き通った大きいキノコ。オートが第一印象で出てきた言葉はそれだった。


 傘のように開いた本体は、ひらひらとカーテンのように揺れていて。柄のような部分は、よく見ると細い触手の集合体だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る