四日目
第1話 拍動
まず、深呼吸をする。彼の身体に肺があるのか不明だが、一杯に吸い込んだ空気にはソサリウムが含まれている。
次に少年は、左の手首を握って響きを探す。脈があるなら、血が通っている証拠だった。親指の腹が拍動を捉え、流れの強弱を教えてくれる。
一秒の規則正しい流れを頭に刻み込むと、オートは深く息を吸い込んで止める。自分の親指に神経を集中する。
ひぃ、ふぅ、みぃ。約三秒くらいから、鼓動が早くなるのを感じた。血の巡りが早ければ、それだけ取り込んだソサリウムが魔力に変わる速度も上がる。
息を止めている間は、魔力生成の速度も上がるのかもしれない。しかし、身体に負担が掛かる可能性を見出した。限界まで息を止めていると、それだけ拍動も大きく揺らいでいく。
自分の鼓動を把握しながら戦うのは、まだ少年には難しかった。どうしても意識は目の前の敵に向いてしまう為、血の流れなんて気にしている余裕はない。
そこでオートは空いている左手で、小さな炎を作り出した。魔法を使うと、心拍数が上がるのか実験を試みた。燐寸程度の灯から、スイカ程度の炎まで出して調べてみた。
魔法の大きさは、魔力消費に比例する。少年の予想通り、消費が多ければ血の巡りも早くなっていった。
「おっはよ!」
昨日と違ってノイリは、彼の正面から姿を現した。覗き込むように笑顔を向けるさまを見て、どこかオートも顔が綻んだ。
「どんな感じ?」
オートが手首を握っている様子を見て、魔力の調整をしているのが分かったようだ。彼女の問いに、少年は首を振った。
「まだ分からんが、魔力消費が心拍数上げる感じ?」
オートの台詞にノイリは満面の笑みを浮かべた。
「よおやく掴んできたね」
「なにが?」
「それは口じゃあ説明出来なぁい」
踊るような足取りでノイリが歩き出したから、オートも彼女の背を追った。
一歩踏み出すごとに脈の流れが変わるような気がしたから、少年は手首を握ったまま足を進めた。自分の動作一つで心拍数に変化が出る気がしたから、分かるまで握っておいた方がいいと感じた。
何処に向かっているのか分からないまま、少年は荒野を進んでいった。
単に何も考えずに彼女に着いていくだけのオートだが、ノイリには何やら目的があって進んでいるように思えた。
勿論、魔獣を見つける為なのは分かっている。しかし、探すというよりも、まるで目途が立っているように見えたのだ。
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