第3話 沼
二日前、オートは大カエルとの激闘の後、恵みの雨を受けた経験がある。
それも、うろ穴によるものとノイリは言った。
うろ穴はいきなり発生しては、いきなり消えるものらしい。そして、それ以外のことは分からない。
雨によって生み出されるものが、一つだけある。今日のうろ穴は、小一時間ほど空いていた。雨の影響で平地の砂は泥になり、沼というものが出来上がる。
沼が出来るとどうなるか。ノイリの問いに少年は首を左右に振ったから、実際に見せようと彼女は地上に降り立った。
その瞬間だった。オートの視界に光源のようなものが見えたから、とっさに膝を曲げて後転した。
尻についた砂をはたきながら、立ち上がった彼は避けた何かが飛んできた方へと目を向ける。
オートの十メートル先には、うろ穴による雨で出来た沼地があった。
一面の水たまりに、島のように浮かぶ泥。そこには何もない筈なのに、少年は嫌な予感が背中を駆け抜けた。
「来るよお」
空中に戻ったノイリの言葉と共に、水たまりから光が飛び出してきた。
オートは彼女の声を耳に入れた瞬間、九時方向に足を動かしていた。沼から放たれた光源は、彼の右腕を掠めて彼方へと消えていった。
沼地には何かが存在しているのかは分かっているが、それが何かは誰も分からない状態だった。
狙いが自分というのを理解した少年は、向こうがこちらを視認しているという結論を出した。
攻撃を確実に避けられる方法が一つだけあるとすれば、沼から離れることだった。
そのうえ距離を取れば、自ずと向こうから出てきてくれるのではないか。身体をしならせた少年は二度の後方転回で、対象から三十メートルほど下がってみた。
肩をすくめたノイリが、オートの方へと飛び寄った。
「ああいう種類の奴はね、絶対動かないよ」
彼女の言う通り、五分くらい経過しても、相手に動きは見られなかった。
雨によって出来た沼であるのならば、放っておけば乾く可能性をオートは提示した。長期戦の申し出にノイリは首を左右に振った。
「ソサリウム少なくなるからヤぁだ」
子供のように頬を膨らましたものだから、オートはまるで妹のワガママを聞いているような気分になった。
とはいえ、今の彼女の状況を考えれば、少しでも多く魔力を得られるに越したことは無い。
意を決したオートは再び沼地へと駆けだすと、試しに横一線の炎を放った。三日月状に飛ばされた火の手は、あっという間に沼に飲み込まれて姿を消してしまった。
ノイリは渋い顔をした。水相手に火を放てば、こうなってしまうのは子供でも分かる。
今まで対峙した魔獣は、自分より遥か大きな体躯を持つ者ばかりだったから、少年は無意識に頭を働かせていた。
底なし沼の可能性はあるものの、そうでなくても相手の身体が埋まって見えない程の水深があると考えた。オートは再び距離を取ると、後方少し先に自分より二回りは大きい岩を見つけた。
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