第6話 魔力


 協力するとは言ったものの、具体的に何をすれば良いのか。少年の問いに、ノイリは難しそうな顔をした。


「さっきの戦いで、治すのに魔力使っちゃってね。スッカラカンなんだよね」


 彼女の顔に傷をつけた魔法の国との協力者との戦いの話だった。


 てっきり何か月も前の出来事かと思っていたが、まさかさっきの話だったとは。驚く少年の顔を見て、ノイリが楽しそうな笑みを向けた。


「アタシたちジョーキューは、ダメージ受けてもすぐ直るんだよね」


 致命的なものでない限り、魔力を使えば何とかなる。


 そう説明したノイリは、愉快そうな声色だった。傷を塞ぐのに殆ど消費してしまったため、痕は残ってしまっているらしい。


「だから魔力、まず取り戻すのに協力して!」


「分かった」


 了承をしてから、少年は気が付いた。先ほどのやり取りで、魔力を得るにはソサリウムというものが必要。そしてソサリウムの源は生命力で、生き物が死んだ瞬間に多量に出る。


「……あれ、つうと人殺さないと駄目なのか?」


「殺したくない?」


「……出来ればな!」


「じゃあ、他のホーホー探そっか」


「他の方法?」


 三つ方法があるの、とノイリは三本の指を立てた。鱗まみれの指に目が行っていた少年だが、よく見ると鋭いカギ爪のような指先だった。


「一つは今言ったもので、もお一つは他の魔獣から取るってのもあんの。最後の方法は、森かどっかで集めるってだけだけど、大気中のソサリウムは薄くって」


 オートは言っている意味が、よく分からなかった。


 なので自分なりに噛み砕いてみて、要は二種類という風に捕えた。奪うか、集めるか。どちらかの二択。


 集めるというのが一番、無難なような気がしたが、簡単じゃなさそうな物言いだった。


 考えてから、少年も納得した。森と言ったが、今この場所にそんなものがあるとは思えない。


 ここにソサリウムなるものが無いとなれば、まずは出る方法を見つけないといけないのだ。


「……でも人は勿論、魔獣がここに出るのか?」


 以前に現れた大カエルが魔獣だとしても、もともと居たという可能性だってある。他の場所を探すとしても、闇雲となってしまうのではないか。


「多分、ほっておいても向こおから来るよぉ」


 ノイリが人差し指を立てたまま、屈託の無い笑みをオートに向ける。


「だってオート、まだ人間臭いもん」


 その言葉を終えた瞬間、彼女の身体が宙を舞った。


 自ら跳んだのではなく、まるで何かに吹き飛ばされたかのようだった。


 オートが呆気に取られている間に、そのまま放物線を描いて地面へと落ちた。


 一瞬の出来事に、少年の頭は追い付かなかった。


 それでもノイリの傍に寄り、彼女の安否を確認した。


「だ……大丈夫か⁉」


「へえ……き、へ……き」


 絶え絶えの息で出る台詞は、まるで無事のように思えなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る