第5話 協力


「モモちゃんってのはどお?」


 忌憚のない彼女の問いに、少年は口をへの字にした。


 名前の思い出せない彼に、ノイリが提案した名前だった。


 鏡が無い故に本人は知る由もなかったが、少年の髪は真っ黄なのに根元が赤かった。桃のような色合いだという意味で、彼女がそう呼ぼうとしたのだ。


「……何でもいいって言ったの訂正させて」


 流石にモモちゃんは恥ずかしい。まるで女の子みたいな名前に、少年も抵抗があったようだ。


「ピーチ」


 代案に彼は両手でバッテンを作った。英語にするだけで、どこぞの姫みたいな名前になるのだから厄介だと感じた。ノイリが不服そうな表情を浮かべたので、少年は弁解を試みた。


「ピーチも女の子だし、そっちだと白桃っぽいし……」


「白桃?」


 ノイリが目を点にしたのを見て、少年も軽く驚いた。黄色い方は知っていて、白い方は知らないのか。


「桃にも種類があるんだ。黄色と赤のは、黄桃っていって……」


「じゃあ、黄桃でいいね!」


 言いづらそうだと思ったが、それでもモモやピーチよりかはマシだと少年は思った。このまま放っておけば、桃太郎とか付けられそうな勢いだったのだ。


「分かった、俺はオートでいい。そんで、ノイリ。これから俺は何をすればいい?」


 黄桃色の髪を持つ少年、オートの問いにノイリは瞳を丸くした。


「協力してくれんの?」


 おかしなことを言う女の子だ、とオートは思った。そもそも自分の境遇を話したのは、協力させる為だと彼は思っていたのだ。


「どのみち、こうなった以上はどうしようもない」


 魔獣となってしまった上に、この空間から出る方法も分からない。これから自分がどう生きていくのか決まっていないのならば、他に何も出来やしないのだ。


 オートは悲観していなかった。人間から魔獣にされてしまった事実があっても、それを受け入れる以外なにも考えていなかった。


 まるでゲームの主人公になったかのような感覚で、ここで起こった全てを捉えてしまっていたのだ。この決断が今後どういう結末を迎えるかなんて、今の彼からすれば知ったことでは無かったのだ。


「ありがと、オート!」


 それでも女の子に満面の笑顔を向けられて、彼は嫌な気分にはならなかった。


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