第3話 魔獣


 まず少年は女の子に対して、敵意なんて全く無いという話をした。


 ビックリするくらい信じて貰えなかったので、まず初めに少年は身の上話を始めた。


 この荒野で目覚めて記憶が無くて、とりあえず大カエルが居たから倒した。何故か知らないが、普通の人間より身体能力があって、炎を生み出すのが可能なのを説明した。


 話を聞いた女の子は、何故だか一瞬にして上機嫌になった。


「じゃあアンタは、そんな成りして魔獣だったのね!」


 女の子は満面の笑みで、弾んだ声を出した。


「……魔獣?」


 耳慣れない言葉に少年はオウム返しをした。


「あたしたち魔獣ってのは、人間より凄い存在! 魔力持ってんのよ」


 物言いから彼女も魔獣という存在なのは分かったが、次に出てきた新しい単語が少年は分からなかった。魔力という名前は知っているが、奇譚などで出てくる単語と同じものなのだろうか。


「アンタの炎は、魔力を使っているものっしょ?」


 試しに出すように言われ、少年は弾いた指からビー玉程度の火を灯す。女の子は満足そうに笑顔を浮かべた。


「アタシはノイリ。アンタ、名前は?」


 彼女の問いに少年は首を左右に振った。


「あ、そおか。人間だった時の記憶、無いんだっけ」


 目の前の女の子、ノイリが苦笑いをして、少年は目を丸くした。


「じゃあ、アンタの髪の色……」


「……お、俺。人間だったのか?」


 ノイリの言葉を遮るように、少年は問いかけた。今し方の彼女の話からすると、まるで前まで人間だったような物言いだったのだ。


「うん。だって、どお見ても人間じゃない。髪の色はアレだけど……」


「……え、つまり……俺、魔獣にされたってこと?」


「いや、知らないし……」


 呆れ顔のノイリに、少年は心の底から残念そうな顔になった。訳知りそうな同じ魔獣が知らないのであれば、もう誰も分からないのだ。


「なんて呼べばいい?」


「……好きに呼んで」


 何かしらの切っ掛けが掴めそうだったのに、それが空振りだった時の絶望は、少年の気分を落とすのに打って付けのものだった。


「いや、落ちすぎだし。いくらアタシが幹部だからって、分かんないこともあるっての」


「……か、幹部?」


「そ、アタシ。こお見えて、魔獣の国のお偉いさんなんだよ」


 ピンク色の髪を棚引かせ、したり顔になったノイリが鼻を鳴らした。先ほどから、出てくる単語がまるで全然分からなかった少年は、こうなったら全部教えて貰おうと思った。


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