第2話 少女
まず彼が驚いたのは、濃いピンク色の長い髪だった。
亜熱帯に咲く花のような原色が、ひたすら少年の目について仕方なかった。
そして小さくて華奢な身体は、まるで七歳くらいの子に見えた。
顔つきもまるで幼い女の子で、右目の火傷のような痕と、左目に切り傷があったのが印象的だった。
服かと思っていたものは、よく見ると爬虫類の鱗のようだった。頭のツノのような装飾品は、もしかしたら本物なのかもしれない。
少年は、そっと女の子の頭へと手を伸ばす。固い、取れない。まるでくっ付いているようなので、本当にツノという可能性が浮上した。
「痛い!」
突然の大声と共に、少年の腹部に衝撃が走った。寝転がったままの女の子が、彼の腹に拳を入れたのだ。
痛みは無かったが、驚きの方が勝っていたようで、少年は女の子を見て狼狽した表情を浮かべていた。
彼と目が合うなり、素早い動きで女の子は立ち上がる。彼女の背中の先には、尻尾のようなものが揺れていた。
少年は自分の身長を知らないが、立ち上がった女の子と頭一つ分くらいの差はあった。
女の子は間髪入れずに、彼の顔めがけて蹴りを振るった。反射で少年が足を手で受け止めると、彼女は不服そうな顔になる。
態勢を整えて、女の子は少年めがけて拳を突き出した。
右、左、そして右。交互に来る攻撃を、彼は全て手のひらで受け止める。身体に受けても問題の無い程度の威力だと感じたが、手で抑えてあげないと彼女の拳が痛みそうだったのだ。
次に距離を取った女の子は、助走からの飛び蹴りを試みた。
避けるのは簡単だったが、地面に着いて転ぶという筋書きが少年の脳裏を過ぎる。顔面に向けて跳んできたので、彼は両腕を組んで防御する。
着地してからの鳩尾に蹴り、顔面に向けての上段蹴り、そして再び交互の拳。これら全てを少年は、腕と手のひらで受け止めた。
女の子の攻撃を受けているうちに、少年は狼狽えた頭が段々と冷静になっていくのを感じた。
彼女はこちらを敵と見做していて、討伐か何かをしようとしている。しかし何故、敵視するのかが彼には分からなかった。女の子の行動がまるで理解出来なくて、話をしようにも相手は攻撃を続けている。
すると今度は彼女は、背中に羽根を生やして飛び上がった。
被膜のような翼は、まるで竜が持つようなものだった。女の子が頬を膨らまし、まるで何かを口一杯に詰め込んだような顔になった。
瞬く間に少年の身体は炎に包まれた。
これはまずい、と彼は勢いをつけて地面を転がった。思ったよりも熱くなく、身体に損傷は無かったが、服に火がつくのは都合が悪かった。この空間に着替えなんて、あるわけが無い。
「な……なんで、火ぃ効かないの⁉」
彼女の言葉に、少年も全く同じ感想を持った。
以前に彼は自分に向けて、自身の炎を撃ち込んだ経験がある。無傷だったから、そもそも火が効かなくなっているという可能性が浮上した。充分有りうるかもしれないが、本人もよく分かっていなかった。
すると女の子は着地するなり、両手両足を開いて大の字で仰向けに寝転んだ。
「煮るなり焼くなり、好きにすれば!」
その台詞で、彼女が降参しているのは伝わった。少年は困ってしまった。目の前の女の子を、煮るなり焼くなりする理由なんて全くなかったのだ。
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