第4話 起
頬に冷たい液体が触れた気がして、彼はゆっくりと瞳を開いた。
意識が完全に覚醒していないのか、気の抜けた表情で少年は身体を起こす。
続いて大きな欠伸をしてから、寝ぼけ眼をゴシゴシ擦る。両腕を伸ばして、二度目の大欠伸。そして、ようやく周辺を見回した。
心のどこかで少年は、大カエルと戦った出来事は夢じゃないかと思っていた。
起きたらベッドに寝ていて、窓の向こうから朝日が顔を出していて欲しかった。しかし、それが願望でしか無かったのを、周囲を見て思い知らされた。
石が見えて、岩が見えて、果てには広がる地平線。空は雲一つ無いのに灰色で、太陽なんて欠片も存在しなかった。
少年は立ち上がるとジャージについた砂を振り払い、両肩を伸ばすように腕を広げた。
五体満足で、気分も悪くない。それにも関わらず、空腹を全く覚えやしなかった。
喉は乾いているにも関わらず、腹が減らないってどういう状態だろうか。ここに居ても仕方ないと感じた少年は、辺りを散策してみることにした。
ものは試しといった感じで、彼は地面を思い切り蹴飛ばしてみた。
まるで重力が無くなったかのように身体は高く舞い上がり、少し先にあった岩が手のひら位の大きさになるほどだった。
着地しても足に衝撃が来なかったから、本当にここは地球じゃないのかとも思った。
少年は足元にあった手のひら大の石を拾い、転がすように放ってみる。地面に吸い込まれるように落ちていくのを見て、重力があるというのは理解した。
それを踏まえて、少年は一つの仮説を生み出した。もしかしたら、自分は人間じゃないのかもしれない。
大カエルと戦った時のように、彼は拳を突き出した。
放たれた火の塊は、先にあった小岩へと真っ直ぐにぶつかった。火の粉を散らして終わったが、岩肌に少しの窪みを作り出した。
石を凹ます程の威力を持っている炎なんて、見た事も聞いた事もない。記憶が無いにしても、有り得ない光景だと少年は思った。
彼は自分に関する記憶が無いだけで、知識というものは持ち合わせていた。
真っ赤に燃える灯を見て、それを火だと理解していた。カエルという生き物が、身体が何メートルも無いというのを知っていた。
それが故に、少年は自分が普通の人ではない可能性を持った。鏡が無いから顔は見えないが、手足は自分の知識にある人間と一緒だった。
それでも自動車のような速度で走ったり、拳から炎を出すのは人類が出来るものではないと感じていた。
ただ、仮にそうだとしても、今の状況下で普通の人間である必要性を感じられなかった。
自分以外の生き物が居ない空間において、人間性の何が役に立つというのだろうか。少年は完全に開き直っていた。
本人は自覚していないが、彼は考えるのが苦手な性分のようだった。考えることや、すべきことは沢山あるような気はしたが、分からない以上は仕方ない。という結論を出していたのだ。
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