第2話 蛙


 まるで木の枝のように、何かの管が張りめぐらされていた。


 地面から突き出るように伸びた透明の筒は、内部に黒い球体がごまんと詰められていた。


 誰がどう見ても、気持ちの悪いと言える物体だった。


 少年はこれを何処かで見たような覚えがあったが、ここまで大きいものではなかった気がした。管の大きさは電柱ほどで、中の球体はジャガイモくらいはあった。


 何故か気分が悪くなった彼は、こぶし大の石を拾って投げつけた。勢いがあったため真っ直ぐに飛んだ石塊は、まとめて五本くらいの管を貫いた。


 石が貫通した部分からは謎の液体がボトボトと漏れ、中の黒い球体が次々と地面に転がっていく。謎の液体が糸を引いていたのを見て、二度と納豆は食べたくないと思える光景だった。


 すると零れた黒い球体が、まるで自らの意思があるかのように動き出した。糸を引いたままゴロゴロと地面を転がり、身を寄せ合うように集まっていく。


 気味の悪さが増した少年は、再び石を拾って投げつけた。集まっていた塊に穴が空いて貫通したが、他の黒球が覆い塞ぐように空洞に集まっていく。


 そして気づけば、管の中身は全て無くなり、集まった目の前の黒い球体が一つの形になった。黒の権化と言っても、差し支えないような物が生み出された。


 一軒家なみの大きさをもつ、真っ黒なカエルだった。球体から作られたせいか、身体がダルマのような形状をしていた。


 手足が短いが、口が身体の三割くらいの規模があった。眠そうな目は奥まで濁っていて、取り込まれそうなくらいの虚ろだった。


 それを見た瞬間、先程の既視感の正体に彼は気が付いた。あの管の中にあったは、大きなカエルの卵だったのだ。


 カエルが洪大な口を向けた瞬間、嫌な予感がした少年は渾身の力で跳ね上がる。


 信号機くらいの高さまで行ったものだから、飛んだ自分自身が驚愕していた。足元を見ると大カエルは、さっきまで彼が居た位置にヤカン並みの大きさのオタマジャクシを何匹も放出していた。


 とにかく気持ち悪くて仕方ない、と直感で少年は理解した。アイツはぶっ倒さねえと、いけねえ存在だ。


 何かしらの攻撃手段を探る少年だが、靴越しでも蹴りたくなくて、直に殴るなんて以ての外だった。着地した彼は石を拾って、全力投球した。


 しかしタマゴと違って、カエル本体はそこまで脆くないようだった。投石は皮膚には当たったものの、身体の粘膜か何かで滑って落ちた。これは素手で行かなくて大正解だ、と心から少年は思った。


 カエルが彼の方へ向いて、オタマジャクシを吐き出してきた。


 横に跳んで回避した少年は、敵に背を向けて全力で駆けだした。


 この身体がどうなっているかは分からなくても、車並みの速度に簡単に追いつけやしない筈だった。


 逃げたところで何にも解決はしないものの、今は考える時間が欲しかったのだ。投石が効かないのなら、素手や蹴りも無理難題な予感がした。


 どうにかして、効果的な攻撃方法を見つけないといけない。そこまで考えると、彼の頭の上が真っ黒になった。


 少年が顔を上げると、上空には大カエルの腹が見えた。手足を伸ばして、まるで宙を泳ぐように飛んできているのに気が付いた。


 このままだと、少年は大カエルに正面に陣取られる。


 そうなると間違いなく、あのヌメヌメした身体に衝突する。自分の顔面に糸を引いた液体が付着した姿を想像して、彼は吐き気を催しそうになった。


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