魔獣少年☆オートマジック・センセーション
直行
初日
第1話 始
静寂のなか目覚めた少年は、自分が何処に居るのかが分からなかった。
身体を起こすと、まず石が見え。岩が見えて、果てに広がる地平線までもが目に入った。
空は雲一つ無いのに灰色で、太陽は出てないのに周りは良く見えた。木も草も無ければ、生き物なんか居そうに無い場所だった。
岩と砂だけの風景に彼が立ち上がると、そこで改めて自分が横たわってたという事実に気が付いた。
遭難ですかねと言っても、そうなんですよねって返してくれる相手は居なかった。
恐らく日本じゃない、と彼は考えた。何処の国かと問われれば、全く分かりそうなものが無かった。
そもそも地球なのかと疑ってしまいそうな風景に、少年は大きく溜息をついた。
彼は自分の服装を確認すると、全身ジャージ姿だった。手足は普通に動くし、声も問題なく出せた。
喉の渇きは少しだけ覚えるが、空腹は全くといって無かった。そして少年は、自分の名前が出てこなかった。
おまけに年齢や誕生日等も、出て来ないのに気が付いた。自分の股間に触れ、性別は分かったようだった。
しかし事態は全く進歩してなくて、彼は頭を抱えた。生まれも育ちも何もかも分からないのに、どうして岩とか石とかいう名称は知っているんだろうか。
鏡が欲しいと、少年は感じた。何も分からないのであれば、せめて自分の顔くらいは把握しておきたかったのだ。
見渡す限り人工物は無いので、水場か何かあったりしないだろうかと思った。ひとまず彼は砂利に足をつき、歩みを進めてみた。スニーカーだというのに、特に歩きづらさは感じなかった。
体感時間にして十数分は歩き、まるで風景は変わらないのに気が付いた。
暑さ寒さも感じなければ、汗も出てこなかった。まるで昼下がりに、近所を散歩しているかのような感覚に近かった。
緊迫しないといけない状況なのかもしれないのに、記憶が無いせいか少年は全く焦りを覚えない。ときに人は分からないことだらけだと、全く感情というものは動かないのかもしれないと感じた。
「ぎゃぁぁぁ⁉」
人の悲鳴のようなものが荒野に轟いた。風が無いせいか、骨にまで響いたような気がした。
無意識に少年は足を動かし、声の方向へと向かっていた。自分でも思った以上に、速度が出ていたのに気が付いた。
記憶を無くなる前は陸上の選手だったのか、と彼は思った。それにしては早かった。まるで車に乗っているような速度は、人間が出していいものではない。
気づけば少年の目の前には、自分の背の丈倍の大岩があったから、まずいって思った。止まろうと思っても、慣性がそれを赦してはくれなかった。
このままだと正面衝突しそうだったので、彼は思い切り地面を蹴飛ばした。
バネのようにしなった足が宙に浮き、気づいたら大岩を飛び越していた。自分の身体はどうしちまったんだ、と少年は思った。
そして着地してから、地平線の先に目を向けた。何かが見えたが、正体までは分からなかった。
彼は再び駆けだすと、やがて全体の姿が露わになっていった。それを見た瞬間、少年はいたく嫌悪感を覚えた。
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