第1章
第1話 大きいほうが好きですか? 小さいほうが好きですか?
図書室奇襲攻撃事件の翌日。
充輝は、普通に学園に登校し、朝のホームルームが始まるまでの間に、昨日あった出来事の一部を、クラスメイトの
「なぁ。駿平。図書室でいきなり背後から殴られるって、どういう意図があると思う?」
「それはあれだな。そこに山があったから的なやつだろ」
「そんな気軽に殴られたらたまったもんじゃないな」
「だな。他にあるとしたら、見られてはいけない取引を見られたとか?」
駿平は、昨日リリースされたばかりのソーシャルゲーム『
「推理ものの漫画の読み過ぎだろ、それ」
「じゃあ――」
「じゃあ?」
駿平はスマホの画面から顔を上げ、真剣な表情で充輝の顔を覗き込んでくる。
「新手のヤンデレかもしれない」
「は?」
駿平が貯めに貯めた答えが、あまりにも斜め上を行くものだったということもあり、充輝は拍子抜けしたような声を上げるしかなかった。
「だって、不意打ちだったから気を失ったとはいえ、見た感じ怪我はなかったんだろ? その適度に相手を思いやりつつ、しっかりと爪痕を残していく感じ、ヤンデレ感ない?」
「殴られてる時点で、俺は思いやりなんて欠片も感じられないんだが」
「それは、行き過ぎた愛が彼女をそうさせた結果ってやつだ」
「お前、絶対ヤンデレヒロインが出てくる作品に感化されてるだろ」
「愛ゆえの行動なら赦される。ただし、二次元に限る」
あぁ、これはダメなやつだ。
充輝は心の中で色々と察した。
「お前に話した俺がバカだったよ。」
「それにしても、良く出来た物語じゃないか。まぁ、ありがちな感じもしないでもないが。とりあえず、ヤンデレヒロイン出してくれ」
駿平は充輝がエロ小説を書いていることを知っている。どうやら、昨日の出来事を充輝が書いている小説のネタか何かだと思っているようだ。
「一回、ヤンデレヒロインから離れろ」
「はいはい。それで。お前、頭大丈夫か?」
「ん? あぁ。少し痛みはあるが医者的には問題ないそうだ」
図書室で何者かに殴打され、気を失ったあとすぐに、巡回中の教員に発見され、念の為に、病院に行くことになったが、特段、異常は見当たらないという診断をもらっていた。
「いや。違うそっちじゃなくて。そんな妄想をこんなところで堂々と」
「妄想じゃないんだよなぁ。というか、それだけはお前に言われたくないセリフだわ」
正直、妄想だと思われても仕方ないと思う部分もある。
まさか図書室で、学園一の美少女の隠された生態を本棚に隠れてみていたら、背後から殴打されるなんて、充輝も思ってもみなかった。
「おはよー。下舘くんそこアタシの席だから、どいてどいてー」
「あぁ! わりぃ」
そんな話を遮るように一人に女子が快活な挨拶とともに駿平をどかすと、駿平のいた席にキーホルダーやら何やらがじゃらじゃらと付いたスクールバックをどさっと、置いた。
「おはよう。野々宮さん」
「おはよー! 二人とも相変わらず仲良いね。今日は何の話してたの?」
「あー、それはだな」
「こいつが、朝から妄想を垂れ流すだけの話だけど聞くか?」
「なにそれ! 気になるんだけど!」
意外にも食いついてくる野々宮さんは、この話に食いついてきてしまった。
その時に身を乗り出したことにより、ボタンの外れたブラウスの隙間が大きく広がる。あと少しで立派な谷間が見えそうなところで――
「萌絵~。今日の放課後のことなんだけどー」
「あ、うん。今行くー。ごめん。やっぱ、その話また今度ね」
「あ、そうそう」
野々宮さんは、クラスの女子の集まっているほうに行こうとしたところで、足を止める充輝のほうへと駆け寄ってくる。
「あとで今日の古文の宿題見せてくれない? ね、お願い!」
野々宮さんは、こうして宿題を見せてとせがんでくることがある。充輝にとって特に問題があるわけではなかったが、理由もなく見せるのはちゃんと宿題をやってきた他のやつらに申し訳ないようにも思えた。そこで充輝は、たまには出し渋って見ることにしてみた。
「ただでは嫌だと言ったら?」
「むむっ。アタシと交渉しようっていうのね。そうだなぁ〜。何でも言うこと聞くって言ったら?」
「おぅ? 今、何でもって言った?」
「なんで駿平が反応するんだよ」
「何でもって言われたらそりゃな。な?」
駿平は小さく手招きをしてくる。充輝がそれに従い近づくと、がっちりと肩を掴んでひそひそ話を始める。
「だってお前、考えても見ろ。うちのクラスでは、真崎さんと並び立つほどの美少女だぞ。あくまでこれは俺が集めたデータだが、うちのクラスの男子のなかで人気投票をしれって行った結果、途中まで半々ぐらいに票が割れたなんてこともあるくらいだ」
真崎さんの席のほうを見るが、そこに姿はない。どうやらまだ登校していないらしい。
本人がいないところで噂話は、少し気が引けるところではあったが。
「ほう。興味深いな」
「だろ? 最終的には真崎さんの票のほうが多かったが、やはり、野々宮の大きなおっぱ――」
駿平がとある単語を口走ろうとすると、教室のあちこちから、分度器やらチョークやら、ちりとりやらが駿平に向かって飛んでくる。
「ぎゃぁあああっ!」
「あぶねっ」
充輝も慌てて駿平から距離を取る。
すると、女子の一団が野々宮さんを守るかのように野々宮さんの前に立ちはだかる。
「ドスケベ男と変態紳士で、何ひそひそ話してんのよ。萌絵のこと変な目で見ないでくれる?」
「そうだそうだー。女の敵ー!」
「百歩譲って、変態紳士の久野島はともかくとしても、下舘、アンタはダメ、ゼッタイ」
「なんでだよ! 充輝だって、同じ変態じゃんか」
「おい。いわれのない罪を被せるのはやめろ」
「久野島は、変態だけど、ほら、紳士じゃん」
周囲の女子はうんうんと頷く。
この時点で、充輝は反論することを諦めた。こういう時は、多数派の意見に流れることがほとんどだ。下手に反論しようものなら、かえって印象をより悪くすることに繋がりかねない。
「意味分かんねぇよ。こいつだって、おっぱ、ぐへっ、もみ、痛っ、決まっ、って誰だ、さっきから! てか、コンパスはマジでやめろ」
「とにかく! 萌絵に変なことしたら、マジで許さないから」
「そうだそうだ!」
「萌絵。行こ?」
「あ、う、うん」
女子の一団は言いたいことを言い残し、野々宮さんを取り囲むように立ち去ってその場から離れていった。
「くそ。なんで俺だけこんな目に」
「日頃の行いってやつか」
「へっ! よく言うわ。それで、お前はどっち派だ?」
駿平は再び、充輝のそばにやってきて小声で耳打ちをする。
「どっち派って?」
「とぼけんなよ。たわわ派か、そうでないかを聞いてるんだよ」
あの程度のことでめげない駿平も駿平で、なかなかに肝が座っていると充輝は思わずにはいられなかった。
「そうだな。俺は変態紳士なので、おっぱいではなく、尻で選ぶな」
「こいつマジで変態紳士だった……」
「もちろん冗談だ」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ」
駿平がお手上げといった様子で、手をひらひらさせる。
「そうだな。アマチュアエロ小説作家的な目線でいくと、やはり大きいほうが、描写として映えるような気もするが、ないならないなりの魅力というのもあって、これはこれで捨てがたいというのが、本音だ」
「つまり?」
「どっちでも楽しめるな」
「お前、変態紳士ってあだ名、ピッタリだわ」
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