フットサルの助っ人 3
「えぇっ!? 多来沢センパイはフットサルに参加しないッ!!?」
おばちゃん達の会話から多来沢の参加は決まっているものだと思っていた。夏河の大きな眼が更にまんまると見開かれる驚きように多来沢は苦く笑いながら参加しない理由を説明した。
「これ商店街の人達がみんなで楽しむフットサル大会だろ? どうして助っ人が必要なんかはわかんないけど、おまえら四人も助っ人て事はウチも含めてフットサルのフルメンバー五人が埋まるわけだよな?」
「え、フットサルて五人なんですか、十一人じゃなくて?」
だが、理由説明の話の腰をポキリと夏河が折る。横から雨宮が入り込み、改めて簡単にフットサルのルールを説明する。
「十一人だとサッカーになるでしょ。フットサルって最低人数三人でもできるスポーツなのよ、基本はゴレイロも含めた五人制でやる――」
「――えと「ごれいろ」てなんだっけ? し、審判かな?」
「審判がチームポジションに入るわけ無いでしょ。
「そ、そうだったけ……いや、なんとなく聞いたような気もしなくはなくて、
事前に説明された事が脳みそからすっぽ抜けてる夏河に雨宮のうっすらと冷風の強いクーラーのような肌には涼しすぎる視線が向け、夏河は唇を尖らせながら目を逸らす。その様子に
「ま、とにかく、交代要員も含めた十人でやるのがフットサルだ。もう一度言うけどウチも含めたらスタメンの五人が助っ人で埋まっちゃうだろ? これじゃ、おばちゃん達の人数見てもあぶれちゃう人が出てくんだろ。せっかく真新しいスポーツウェアまで着込んでやる気まんまんな所に部外者がスタメン独占しても楽しくなくなるだろって話よ。スポーツはみんなが楽しまなきゃダメだろ?」
「なるほど、納得できましたッ。確かに、みんな楽しんでこそのスポーツですもんねッ」
多来沢の助っ人をしない理由を聞いて夏河も両拳をグッと握って納得した。
自分達はあくまで助っ人、主役は商店街のおばちゃん達だということを忘れてはならないのだと夏河はうなずく。
「あらー、そんな事はないわよね。むしろ、ガッツリ主役になって貰いたいわ。でしょ?」
「そうよ、若い娘達の方が観る方も盛り上がるし、マリアンヌさんがお孫さん助っ人にって、写真見せてもらってね、こんな可愛い娘が来るんなら応援団に集中しちゃおっかっておばちゃん達は決めてたんだから、当日に可愛い助っ人ちゃん達が増えたんだもの、応援団にまわって良かったわぁ」
「このジャージも応援のためにお揃い買っちゃったのよね。もう心はチアリーダー?」
「やだもう老けたチアリーダーねぇッ、アッハッハ!」
が、おばちゃん達は別に自分達が試合をするつもりはまったく無いようだ。
「あの、試合やる気ゼロみたいですけど多来沢センパイ? 」
「……
なにやら小声でブツクサと言いながらおばちゃん達の堂々たる応援団宣言に多来沢は若干ごまかしを入れるように咳払いをしてから両手を前に組んで後輩達に主役となれと激励を飛ばす。が、当初の予定通り多来沢はフットサルには参加しない心積りのようだ。
「なにいってんだよハァちゃんッ。ハァちゃんもやるに決まってんだろッ」
しかし、祖母マリアンヌがなぜだか多来沢の不参加にノーを突きつける。多来沢はラスボスが来たと頭を掻きながら思考をグルグルと迷わせるような難しい顔でマリアンヌの説得を試みる。
「あのねばあちゃん、今日のウチは休養日にしてるんだよ、ここでフットサル一試合分やったら身体を休める事にはならないだろ。スポーツにはクール――」
「――だったら明日を休養日にすればいいじゃないのよ。それならバッチリだよッ。お願いだよフットサルやってよハァちゃん。こっちは負けてらんないんだよ「
どうにも融通の利かないハッスル祖母に頭を抱える多来沢。この状況は後輩達に誤解されそうだが、いつもはパッショネイト全開でも、自分に対してここまで我儘は通さない祖母マリアンヌ。どちらかいえば孫には激あまなおばあちゃんである。しかし、今日は朝から「一緒に行くよハァちゃんッ」と玩具をせがむ子どものように手を無理やり引っぱられて付き添いという形で付き合ったわけであるが、この商店街フットサル大会に連れてこられた理由は実のところよくわかってはいなかった。やけにヒートアップした様子から恐らくいま言葉にした「渡利の爺さん」なる人物となにか因縁があるようだが。
「そもそも、その渡利の爺さんて――」
「――おおっもう来とるやないか同示ヶ丘商店街の皆はんっ」
とりあえず多来沢が理由を聞こうとした瞬間、背後からやけに胡散臭さのある大声な関西弁がやかましく響いてきた。
「どうも、遅れてすんまへんなっ」
振り向くと顎髭にレイバンのサングラス、ド派手なアロハシャツという見るからに胡散臭さ満載な大柄な男性が扇子を扇ぎながら後ろに中学生くらいの女子五人を引き連れて歩いて来るのが見えた。
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