フットサルの助っ人 2
「なにやってんだ、おまえら?」
ワシワシとミディアムな黒髪を掻きながら、もうひとりのフットサル助っ人と思われる「多来沢 はじめ」は夏河達の元へと歩みよってくる。まさかの女子サッカー部直属の先輩の登場に全員驚きだ。
「いやいや、なにやってんだとかそのまま返しちゃいたいんですけど、あれぇ、実は多来沢センパイも
こういう時に先輩だろうと物怖じをせず、率先して前に出てゆけるのはコミュニケーション能力◎な夏河の強みだ。多来沢もこういう踏み込んでくる人懐こさのある人間は嫌いではない。
掻いた黒髪を適当に手櫛で
「いんや、違う違う。ウチは「ばあちゃん」の付き添いで来ただけ」
「バアチャン?」
「あぁ、
「アンキュー? あーっ、確かおばちゃん達が御用達にしてるお店がそんな名前だったような気がしますっ」
多来沢の言う店名になんとなく聞き覚えがあり、合点がいったとポンと
「そ、ウチのばあちゃんがそこの――」
「――オイ、ハァちゃんなにしてるんだよっ」
多来沢に疑問に思った事を尋ねようとした時、多来沢の後方から酒に焼けた女性の大きな声が聞こえてきた。
「あ、ばあちゃん?」
多来沢が振り向くと、そこにはおばあちゃんと言うにはあまりにも若々しい髪を
「ダッハッハッつかまえたぞハァちゃんっ」
「はいはいギブギブギブわかったから、とりあえず離してなばあちゃん。ウチの後輩の前なんだよ」
熱い抱擁に手慣れた様子で肩を叩くと少々バツが悪く片眉を上げて夏河達に顔を向けると、目をパチクリとさせて熱い抱擁を眺めながら、満面の笑みで多来沢を抱きしめたままの女性は多来沢の片手をヒラヒラと上げ振って挨拶をしてきた。
「おー、ハァちゃんのコウハイちゃんたちなのかっ、カワイイねぇッ。はじめましてねウチはマリアンヌさんだよっ」
その陽気な挨拶に夏河達も「はじめまして」と挨拶を返し、多来沢は力が緩んだ隙に抱擁から脱出すると、多来沢祖母マリアンヌさんは少々不満げな顔をする。
「なんだよハァちゃんなんで逃げるんだよオマエさんはッ」
「だからさばあちゃん。後輩の前なんだからわかってくんないか。ハァちゃんも今はやめてく――」
「――ハァちゃんはハァちゃんだろうよ。ウチはなんてハァちゃんと呼べばいいんだよッ」
「あー、はいはい、もうハァちゃんのまんまでいいから、ハグは自重な」
祖母の扱いに慣れながらもタジタジとなっている多来沢の姿は部活等では見かけない新鮮な物だ。一年生から見れば最上級生の
「あの、多来沢先輩のお婆さまって、外国の方なんですか?」
青い瞳を二、三回と
「あぁ、ウチのばあちゃんフィリピンだから」
整ったクッキリとした鼻筋は多来沢とよく似ているが、堀の深い大きな黒目が特徴的な東南アジア系なマリアンヌの瞳は日本的な切れ長な眼をしている多来沢とは違って見える。よくよく見ないと血縁とは思われないかも知れないだろう。
「じゃあ、多来沢先輩もハーフなんですか?」
やはり外国の人かと納得した雨宮が多来沢にたずねると、今度は首を横に振った。
「いんや、ウチはクウォーターだよ。ハーフは母ちゃんだな。ていうか、それよりおまえらはなんでここにいんの?」
今度は多来沢が質問をすると「はい、実はですね」と横から人差し指を立てて夏河が割り込んできて、経緯を説明した。
「へー、フットサルの助っ人ねぇ」
多来沢が腰に手を当てて納得するとなぜか胸を張った夏河が「はいっそのとおり」と元気に応えて、隣のマリアンヌを見つめた。
「しかし、多来沢センパイのおばあちゃんが同示ヶ丘のご近所さんとは知らなかったなぁ。世間は狭いとい――」
「――違うよウチは同示ヶ丘に住んでないだろう」
「え?」
腕を前に組んで頷く夏河に、発音はハッキリとしているがどこか文法が少しおかしなマリアンヌが「なにいってんだよ」と言わんばかりに否定してくるので夏河はパチクリと瞬きをして自身のサイドアップの根本をクシクシと掻いた。
「悪いイチジョウ。ばあちゃん悪気ないんだがズケッと言うからさ。さっき言ったAng cuteてブティックの店長がばあちゃんの友達なんだよ。ほんで、なんか催し物やるからってんで今日はウチが付き添いで連れてきたわけ」
遠慮のない身内に軽く謝罪しながら、多来沢は今日ここに来ている経緯も説明した。
「いえ、別に気にはしてはないというか、わたしも性格的に似たような感じだから親近感が湧くというか」
マリアンヌとは似たようなものを感じる夏河には逆に好印象ではある。というか、部活での多来沢もどちらかといえば目をかけた相手には特に遠慮なくズカズカと突っ込んでくるタイプではあるので同類感は強い。夏河達も多来沢のルーツを見たという感じではある。
「あれ、付き添いで来たという事は先輩はフットサルの助っ人では無いんです?」
「あぁ、なんかおばちゃん達は盛り上がってたけど、ウチはここでフットサル大会やるなんて、初耳だし、別に参加するつもり無えよ」
「ええッ!?」
勝手に助っ人のひとりだと思い込んでいた夏河はビックリと声を上げるのだった。
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