下校する二人
校舎から聴こえる吹奏楽部のパート合わせ練習の音が
本当はキャプテン、
(今日の試合練習は色々と収穫があった)
ひとり正門方面へと向かいながら、少しは試合熱の引いてきた身体を心地良い風で冷ましながら、試合練習を冷静に振り返る。
今までは走り込みや個別練習くらいでしかほぼ接してこなかった同学年のチームメイト達。ポジション違いではあるが、ひとつのチームを組んで挑んだ今回の試合練習、不充分な即席チームで一学年上の二年生相手に同点で押さえた。これは一年達の自信となったのではないだろうか。だが、やはり同じ即席でも一年間共にプレイした二年生達の方が格段にチームワークは上だった。一年生のチームワークといえば、一点取られた後に奮起して挑んだ突貫作戦「
よかった所は確実に見えてきている。寺島の周囲を把握し、チームを鼓舞する意外性のあるチームメイクの高さ、鮫倉の粘り強いボールへの執着心とハイプレースメント能力。そして、まだまだサッカー素人ながらも、偶然なチップキックシュートのゴールへと繋げた夏河の強運と他のスポーツで下地が鍛え上げられた確かな攻撃力の高さ。活躍した一年生全員分の長所を上げればきりがないくらいの大豊作だったと言えるだろう。恐らくそこは、今回の試合練習を作った宮崎監督やチーム全体を見てるだろうキャプテン赤木も気づいてるのは間違いない。
正門から自転車を押して歩く女子の姿が見える。それが
鮫倉の自転車は正門を出るとすぐに加速して行った。雨宮はそれを目で見送りながら正門を出た。
「気になるなら、声掛けりゃ良かったんじゃないの?」
急に、後ろから鼻に掛かった声がする。振り向くと、そこにいたのは同じ女子サッカー部一年、
「なんだよ」
少しマジマジと見てしまった雨宮にぶっきらぼうに言葉を返す寺島。
「ごめんなさい、声を掛けてくるなんて意外だったから」
彼女は雨宮の事をハッキリ「嫌い」と言っていたから、気づいても無視して行ってしまうものだと思ったからだ、雨宮自身もそうゆうものには慣れてはいるから、気にはしないのだが。
「声くらい掛けるでしょうが同じ部活同士なんだし、はぁ、あーしはどんな薄情もんに思われてんだ」
そういって肩を竦める寺島を見て、存外、彼女は裏表の無い人間なのかも知れないと思った。
「自分で言うのもなんだけど、今日の試合練習はなかなか良かったよな。先輩達にも一矢報いてやった、夏河のチップキックに感謝だ」
帰り道は一緒では無いはずなのだが、寺島は今日の試合練習を肴に雨宮とサッカー雑談をしながら、着いてくる。特に言うことでも無いと思い、そのまま歩きながら雑談に耳を傾ける。
「ま、雨宮の判断もさ、良かったよ。あそこで引きつけてくれたおかげで夏河にーーなに?」
またマジマジと見られてる事に気づき、寺島は首を傾げた。
「いや、嫌われてると思ってたから」
まさか自分のプレイを褒めてくるとは思わなかったから、雨宮は妙な気分だった。
それに対して、寺島は
「別に、雨宮のテクニカルサッカーは嫌いじゃないよ」
サラッとそんな風に言ってのけた。別に無理な世辞を言ってるような素振りもない。
「あーしは上手いやつはリスペクトするよ、先輩後輩同期関係なく」
「じゃぁ、嫌いって、何なのかしら?」
素直に疑問に思う。寺島の発言は雨宮には矛盾していると思えたから。
「嫌いは、嫌いだよ。こいつばかりはどうしょうもない」
「意味がわからないんだけど?」
「意味とかどうでもいいんだよ。こっちだって整理できてないモヤモヤっとしたもんがあるんだ。中学生は色々複雑なんだよ」
この話はオシマイと切ろうとする寺島は理不尽の権化だなと雨宮が納得しきれない顔をしていると。
「おぉ、いたいた二人とも」
明る気な声がサイドアップを揺らして後ろからやってきた夏河だ。もはや声を聞いただけでもわかる。
「「なに?」」
寺島と声をハモらせてやってきた夏河に声を掛けると夏河は大きな眼を輝かせてこういった。
「あのさ、急なんだけどうちでご飯食べないっ。今日がダメならいつでもいいからっ」
「「……はい?」」
本当に急なご飯のお誘い。夏河の言ってる意味がよくわからず、整理するのに少し時間を要した二人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます