紅白戦 上
(赤側のキーパーはリサキか)
白いビブスとキャプテンマークを身に着けた三年生
(向こうもこっちと同じ4-4-2〈DF4.MF4.FW2の基礎的フォーメーション〉。まぁ、実力を見るには基礎戦術がセオリーだよな。おっ、中盤を強化してきたかな)
多来沢は赤チームのフォーメーションを確認をしながら頭で予想を立てる。赤チームは正レギュラーが多めのバランスで、特に
(こりゃ、白チームに一番実力を試したいやつがいるせいか?)
切れ長な眼を細ませて後ろを見やる。日本人離れした整った顔立ちと青色の眼が特徴的なショートカットヘアの少女がすぐ側のトップ下に立つ。二、三年生の間で話題の一年生MF「
(で、ウチのツートップの相方も、一年生ちゃんか)
目線を横へと移動させると襟足を伸ばした長めのショートヘアにゴムのスポーツヘアバンドで前髪をあげた女子が屈伸運動をして試合の開始を待っている。FW志望の一年生「
とにかく、白チームのキャプテンは多来沢自身だ。最初に自身の作戦を後輩が多めな白チームには簡単ではあるが伝えてある。
『まずはフォワードは確実にマークされるだろうから、キックオフと同時にウチがボール渡したら鮫倉は無理せずにトップ下の雨宮にパスするんだ、理想はマーク外しからのカウンター攻撃だけど、向こうもこっちの盤面どおりにはさせないと思うから――』
トップ下にボールを回したあとはまずは自由にやらせてみようと思うのが多来沢の考えだ。しかし、キャプテン指示というのはどうにもなれない。やはり、試合の中で敵味方の動きを見て試合感を叩き込むのが一番自分らしいと多来沢は思う。
そして、紅白戦はホイッスルと共に幕を開ける。先攻、白チーム。
多来沢がボールを横の鮫倉に渡し、すぐさまトップ下の雨宮に送る。
説明した作戦はこうなっているはずだ。
だが、蹴られたボールを持つと鮫倉はいきなりスタートダッシュと言わんばかりのドリブルで敵陣へと向かい始めた。
(こいつっ)
ワガママだ。いきなりの作戦無視に一瞬、初動が遅れた多来沢のフォワードである選手感覚がそう告げた。
脚に自信があるのか、ボールコントロールは荒々しいが鮫倉のトップスピードは速い。いきなり中盤の守備を越え、二年生ながらディフェンスリーダーを務める立壁のディフェンスをそのまま突き抜け、ペナルティエリア内に突入すると初歩的なインステップキックで狙いを定めず高速シュートを敵陣ゴールへとお見舞いした。シュートが左斜め隅へとゴールを襲う。
が、その軌道に有三のパンチングが難なくシュートを弾き、勢いが殺されたボールは上空に処理されると楽々と有三の胸に吸い込まれるように両手でセービングされる。
「くすぅぉっ」
先制点を決めるつもりでシュートを撃ち込んだ鮫倉の口から悪態をつくような言葉が短く吐き出された。小さな呟きだが有三の鋭敏な耳には届いている。
「ナイスガッツウ」
少し皮肉を込めて有三が緩やかな声で返すと、途端に鮫倉の目が険しくなるのを見て有三は軽く唇を舐めてかっぴらいた眼で後ろに下がる鮫倉の生意気さを感じながらその負けんきの強そうな闘争心は嫌いではないと笑みをこぼしながらボールを蹴り上げてフォワードへとロングパスを送った。
自身へと送られてくるロングパスを受け取るため二年生FW「
だが、ボールを受け取ろうとする武田の前にひとつの影が飛びだし、ヘディングで鋭くパスカットをする。レギュラーである武田のカウンターを予期しマンマークしていた「雨宮 リア」の予測勝ちである。
ヘディング処理されたボールを味方が受け取るとすぐに態勢を立て直した雨宮の目配せで時間差のショートパスを送られる。絶妙なショートパスを脚先です早くボールコントロールするとドリブルモーションへと移行した。攻撃的ミッドフィルダー雨宮 リアが敵陣へと侵攻を始めた。
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