第54話 借り物競走
『これから全学年による、借り物競走を行います』
俺たち参加者は、放送を聞いてスタート位置へと向かう。
50mぐらい先には、糸から垂らされているカードが何枚も見えた。
「できれば楽なお題がいいなぁ。 『担任の先生』とか」
「いや、それ楽なお題か? 先生が運動場いなかったら詰みじゃね?」
「お題が『好きな人』とかだったら、あたしどうしよ〜!! みんなの前で連れて行ったら、公開告白になっちゃうよー!! きゃぁぁぁぁ!!」
「『好きな人』がお題なら、仲が良い女の子連れて行っても問題ないんじゃない?」
「それ、あり」
「それはそれで、なんだか盛り上がりそうね」
周りにいる生徒たちが、ワイワイとお題について盛り上がる。
うちの体育祭で盛り上がる競技といえば、騎馬戦とこの借り物競走だ。
騎馬戦は暑い戦いを見ることができるから盛り上がるけど、借り物競走は少し違う。
奇想天外なお題、それに戸惑いながら動き回る生徒を見ることができるから、笑い要素ありで盛り上がることができる。
去年見て、面白くてゲラゲラと友達と笑ったのは記憶に新しい。
去年のお題では『○年○組の黒板消しを取ってくる』、『美人な先生を連れてくる』とかあったなぁ。
黒板消しの時、焦りながら校舎に全力ダッシュしに行った生徒の顔は、忘れることができない。
みんな比較的近くで借りれる物だったのに、1人だけ校舎まで行かないと行けなかったのは不憫だったけど、正直めちゃくちゃ面白かったなぁ。
時間オーバーになって、膝から崩れ落ちたところもポイントが高かった。
「(さて、俺はどんなお題になるんだろう? できれば楽なのがいいなぁ)」
野球部を連れてこいとかだったら楽だ。
坊主の人は比較的見つけやすいし、うちの野球部は部員数が多いから、簡単に見つけることができそうだ。
そんなことを思っていると、遂に俺の番となった。
俺は立ち上がってスタート位置に行き、足首をグルグルと回す。
正直、借り物競走ではあまり脚の速さは関係ないような気がする。
重要なのは、どれだけ借りやすいお題を引くことができるかだ。
でも、正直そこは運なのでどうすることもできない。
だから、俺はそこそこの速さで走って、直感でカードを引いてやる!!
『位置についてーーーよーーーいドンっ!!』
パンっというピストルの音を聞くと同時に、俺は走り出す。
狙いは端から2番目のカード。
理由は端のカードには無理難題のお題があって、その隣は比較的安全だろうという、ただの予想だ。
「ッシ!」
俺はすぐにカードを取って開く。
そこには黒くて大きな字で『話しやすい異性』と書かれていた。
それを見た瞬間に俺の頭に浮かんだのは、灯ではなく、片桐さんだった。
異性と話す時、誰でも大なり小なり気は遣っていると思う。
でも、灯は異性+好きな人だから、『カッコ悪いところは見せたくない』、『この軽口が地雷になるかもしれない』など、他の異性に比べて気を遣ったり、考えて関わっている。
しかし、片桐さんは少し違う。
趣味とかも合って話しやすいし、『ここまでの軽口は言えるし、言っても片桐さんなら気にしない、もしくは許してくれるだろう』という、妙な安心感がある。
そういう意味では、俺にとって『話しやすい異性』は、片桐さんが1番適任だった。
「善は急げだ」
俺は急いで自分のクラステントへと向かう。
少し走れば、灯とこっちを見ている片桐さんが視界に入った。
灯は口元を両手で隠しながらなんだか慌てていて、片桐さんはそんな灯を見てニヤニヤと笑う。
「泉こっちきてるよ!?」
「もしかしたら、あかりんがお題にピッタリな人なのかもね!」
「そ、そうなのかなぁ!?」
ごめん。 期待させて悪いけど、借りたいのは灯じゃなくて片桐さんなんだ。
「ごめん! 片桐さん一緒に来て!!」
「はぁ!? ちょっ! まっ!!」
「…………えっ??」
俺は片桐さんの手を掴んで走り出す。
片桐さんは頭にたくさんの?マークを浮かべていて、灯は呆然とした表情を浮かべていたのだった。
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