第55話 ✳︎どうして?
「……えっ??」
私の隣にいたななちんが泉に引っ張られていく。
さっきまでのもしかして!?という、焦っていた気持ちはスッと消え去り、残ったのはどうして?という気持ち。
目の前に映っている2人の姿は現実なのに、なぜか御伽噺の世界を見ているような気持ちになった。
そう。
ななちんを引っ張る泉は、まるでお姫様をカッコ良く攫っていく王子様のようでーーーーーーー
「いっけぇぇぇぇぇぇ! 2人ともぉぉぉぉ!!」
「はっ!」
私は友達の声援で意識を取り戻す。
改めて2人を見てみると、2人はもうゴール直前だった。
あっ……ゴールする。
そう思った瞬間に、2人はゴールテープを切り、ピストルの音が運動場に響き渡る。
ゴールを見てみると2人しかいなかったから、暫定1位だということがよく分かった。
あっ……このままだと二人三脚に続いてまた2人で1位になる……。
「うぉぉぉ! あのコンビまた1位じゃん!!」
「ってかなに!? 片桐を連れて行くお題ってなに!?」
「これはもしかしてもしかして!?」
「『好きな人』とかだったりするーー!?」
『好きな人』。
その言葉を聞いて、私の胸に痛みが走る。
気持ちは暗くなり、涙が溢れそうになった。
ギュッと胸元を掴んでもこの痛みは無くならない。
むしろ、時間が経つにつれて痛くなった。
「違うよね? 泉……」
泉の好きな人は私なんだよね? 何回も告白をしようとしてくれたよね?
あれ? もしかして全部私の勘違いだった?
いや、でもーーーーーーー
『さぁ、暫定1位の2ーCさんのお題はぁぁぁぁ……【話しやすい異性】!! これは合格でしょうか!?』
放送を聞いた2人の審判が泉達を見て、両手で⚪︎を作る。
これでお題はクリア。
暫定1位から正式に1位になった。
「お題は話しやすい異性か」
「確かに2人仲良いしね〜。 納得」
「でも、『好きな人』じゃなかったのかぁ。 ちょっと残念」
「公開告白かと思って、ちょっとワクワクしちゃった」
周りのみんながワチャワチャと楽しそうに話す。
『好きな人』じゃなかった。
その事実を知って、少しだけ胸の痛みが和らいだ。
しかし、まだ胸の痛みは残っている。
泉にとって私は1番『話しやすい異性』じゃないの??
私にとって1番話しやすい異性は泉なのに……。
「お疲れー!」
「ナイスコンビ!!」
「もう2人で競技でたら絶対1位取れるんじゃね?」
ちょっと悲しい気持ちになっていると、いつの間にか2人ともテントに戻ってきていた。
泉はみんなにちょっかいを出されていて、ななちんはどこか申し訳ない表情を浮かべながら、私の横に座る。
「あかりん。 気にしないでね?」
「う、うん……」
ななちんに弱々しい声で返事をする。
気にしないでねと言われたけど、どうしても気になってしまった。
「ったく……高山のバカッ! うちを選んだ理由はなんとなく分かるけどさぁ……はぁ」
「……?? なにか言ったななちん?」
声が小さくて聞こえなかったけど。
「んーん。 なんでこうも男は乙女心が分からんかねえって、ぼやいただけ」
「なにそれっ」
「だってさーーーーーーーー」
私はななちんの話を聞く。
聞いているとなんだかいつもの感じに戻ってきて、なんだかんだ体育祭に楽しんで参加することができた。
でも、私の心の中には、少しだけ暗いなにかが残ったのだったーーーーーーー。
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