第52話 体育祭

『これから体育祭を始めます! 最初の種目は、1年生によるーーーーーーー』


 行進が終わり、自分のクラスのテントに入ると、放送部員の声がスピーカーから流れる。


 辺りを見渡すと体操服を着た学生と、多くの老若男女が見えた。


 空を見上げるとかんかん照りの太陽の日差しが、容赦なく降り注いでいる。


 空は気持ちがスッキリするぐらい青く、もくもくした雲がアイスクリームみたいに見えて、とても美味しそうだった。


「あっつ……」


 テントの中にある日陰で体操座りしているけど、座っているだけで汗が出る。


 まだ体育祭が始まってちょっとしか経ってないのに、こんなに暑くて汗をかくだなんて、今日俺は生きて家に帰ることができるんだろうか??


 そんなしょうもないことを思いながら、俺は体操服の胸元を掴んで、顔に浮かんだ汗を拭く。


 引っ張ったことによって服があがり、お腹がチラッと出ていることを肌で感じだけど、そんなことはどうでも良かった。


 どうせ俺の腹チラなんて見てる人はいないし、見てた人がいたとしてもなんとも思わないはずだ。


 それよりも暑い。 ただただ暑い。


 こんな暑さの中、俺は二人三脚や騎馬戦に出ないといけないのか。


 そんなことを思いながら、一生懸命頑張っている1年生達を見る。


 1年生達は初めての高校での体育祭だからか、とても楽しんでいるように見えた。


「……若いなぁ」


「高山、なにジジくさいこと言ってんの?」


「あ、片桐さん」


 俺がボソッと呟くと、ツインテールを靡かせながら片桐さんが近づいてくる。


 頭には鉢巻を巻いていて、鉢巻には赤い字で『2ーC』と縫われていた。


 ちなみに俺の頭にも同じ鉢巻が巻かれている。


「まだ体育祭始まったばかりなのに、何言ってんのさ」


「だって、この暑さだよ? 泣き言だって言いたくなるよ。 むしろ、さっきまでやる気なかったのに、やる気になっている片桐さんこそどうしたの?」


 さっきまで行進したくないって、グチグチ言っていたのに。


「いや〜『したくなーい!』とか、『めんどくさーい』とか思ってたけど、始まってみると案外やる気出るもんだね」


「そんなもんなの?」


「そんなもんみたいだよ。 あれだよあれ。 遊びに行くまでは『眠〜い』とか言って、消極的だけど、実際に遊び始めると楽しいとか、そんな感じ」


「あー……なんとなく分かるかも」


「でしょ? ってか、今はそんなことを話に来たんじゃなかった。 ほら、二人三脚次の次だから、そろそろ準備とかスタート位置に行こうよ」


「え、もうそんな時間? 分かった。 すぐ行くよ」


 俺は立ち上がってお尻についている砂埃を払い、片桐さんについて行く。


 俺が参加する二人三脚のパートナーは、まさかの片桐さんだった。


 どうやら同じぐらいの足の速さや、普段の仲の良さを考慮して、この組み合わせになったらしい。


 決まった時、灯は残念がっていて、片桐さんは俺の背中をバシバシ叩きながら笑っていた。


 正直、灯と組みたい気持ちがあったし、組めなかったことは残念だ。


 でも、決まったことはしょうがないし、仲が良い片桐さんと組めたのは、ある意味ラッキーだったかもしれない。


「高山。 どうせなら1位目指すよ、1位!」


「分かったよ」


 俺だってやるなら1位を狙いたいし、灯にカッコ悪いところは見せたくない。


「うっし……! 頑張るか!」


 俺は自分の頬を両手でパンパンと叩く。


 二人三脚は、あと少しで始まるのだった。

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