第44話 夏祭り ③

「お待たせー!!」


「全然大丈夫ー! あ、ぬいぐるみは家に置いてきたんだ」


「今から花火するには邪魔だからね」


 夏祭りが終わりに近づいた頃、俺たちは花火をする為に灯の家の近くにある公園へと移動した。


 灯はバケツとライターを取りに行くついでに、犬のぬいぐるみは置いてきたようだ。


「そういえば花火するの久しぶりだわ」


「そうなん?」


「うん。 俺が中学生の頃に親と都、晴の家族とした時以来だな」


 確かキャンプで花火をしたんだ。


 ロケット花火に俺たち子どもはワクワクしていたんだけど、予想以上にしょぼくてガッカリしたのを覚えている。


 あの時は1番都がロケット花火を楽しみにして、しょぼくて悔しがっていたな。


「灯は花火いつ以来?」


「先週ぶりかな」


「つい最近してんじゃん」


「お盆におばあちゃん家に行った時、親戚の子達としたの。 いや〜楽しかったなぁ」


 そう言って灯はお盆のことを思い出しているのか、楽しそうに笑いながら花火の袋を開けた。


「袋には特大ロケット花火って書いてあって、実際に大きかったんだけど、打ち上げたらしょぼかったの。 チビちゃん達ぶーぶー不満言ってたよ」


「あーそれ俺も体験したことあるわ。 俺の時は都が悔しがってたんだよ」


「へ〜都ちゃんがねぇ」


 俺は灯から先端にヒラヒラが付いている花火を受け取る。


 灯はライターで火をつけて花火に着火した後、花火から出た火を俺に分けてくれた。


 お互いの花火がバチバチ言い合い、花火特有の煙と匂いが辺りに流れ始める。


 あー……これこれ。 これぞ花火って感じだよなぁ。


「綺麗だねぇ……」


「そうだな……あ、この花火を両手で持ってクルクル回る奴とか昔いなかった?」


「いたいた! なんならななちんがいつもしてるよ!」


「えぇ……ツインテール燃えそうだけど大丈夫なのか?」


「燃えたことがないから大丈夫なんじゃない?」


 俺たちは火花が弾けるように燃える花火などもしながら、目一杯夏を楽しむ。


 しかし、袋は1つだけだったので、あっという間に最後の線香花火だけになってしまった。


「あー……もう線香花火だけか」


「早いね」


「ま、1袋だけだとこんなもんだよね」


「まぁね。 ほい」


「ん、ありがと」


 俺は袋から線香花火を取り出して灯に渡す。


 灯はしゃがみ込んで線香花火に火をつけた後、ジッと花火を見つめ始めた。


 俺も灯を倣って線香花火を見る。


 線香花火ってすぐに落ちるから儚さを感じることもあるけど、すぐに落ちるってことは、それだけ全力を出して輝いているってことだと思う。


 だから、俺は線香花火の光は、けっこう見ていて勇気や元気を貰えるんだ。


「綺麗だね……」


「そうだね……」


 花火で照らされる君の方が綺麗だよ。


 そんなキザなセリフが喉まで上がりそうになったところを、俺はグッと堪える。


 危ない危ない。 なんだか良い雰囲気だからそんなキザなセリフが出そうになったけど、言った瞬間にこの良い雰囲気は少し崩れるような気がした。


「あ、全部終わっちゃったね」


「そうだね」


 貰った花火はこれで全部無くなった。


 時間も時間だから、きっと後は花火の片付けをして、灯を家まで送るだけだ。


 でも、このままお別れしてもいいんだろうか?


 最初告白しようとしたあの時から、俺達は交流を続けてきた。


 勉強会、お家デート、プールに今回の夏祭り。


 色々なところで遊び、灯と仲良くなった。


 灯から遊びに誘われることも増えてきたし、なにより、灯の家で遊んでいた時、キス未遂事件が起こった。


 あの時、灯は目を閉じて唇を突き出してきた。


 それって、俺とキスするつもりだったってことだと思う。


 なら、灯はかなり俺に対して好感を持っているってことなんじゃないか?


 …………これは、告白したら成功する確率高いんじゃないか?


 シュチュエーションだって悪くない。


 むしろ、夏祭りを目一杯楽しんだ後、2人っきりで花火を楽しむ。


 これは、告白するには絶好のシチュエーションなんじゃないか!?


 俺は灯の顔を見る。


 俺の視線に気付いた灯は、キョトンと首を傾げながら俺を見た。


「どうしたの? なんか顔についてる?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど……灯ってさ、好きな人いる?」


「ふぇ!? い、いきなりなにさ!? 急に恋バナ!?」


 灯は顔をボッと赤くした後、アタフタし始める。


 その姿が妙に愛らしく、俺はおもわず灯の手をギュッと握った。


「灯……」


「え、えぇ!? な、なにさなにさ!? えっ…………」


 灯は顔を真っ赤にしながらジッと俺の顔を見る。


 灯の瞳には、真剣な表情をしている俺が映っていた。


「灯」


「は、はいぃぃ……」


「俺は、灯のことがーーーーーー」


 顔をしっかりと見ながら愛の告白をしようとする。


 しかし、そんな時。 どこからか可愛らしいフワフワした声が聞こえてきたのだった。


 それはーーーーーー












「ありぇーー?? あかりぃにいずみくぅんじゃーん!! やっほー!! 陽お姉さんだぞぉ〜〜!! イェーイ!!」


 ーーーーーーベロンベロンに酔っている陽さんの声だった。


「「陽さん(お姉ちゃん)!?」」


「2人とも夏祭り楽しんでるかーい? イェーイ!」


「「イ、イェーイ……」」


 さっきまでの良い雰囲気は一瞬で消え去り、場にはなんとも言えない空気が流れる。


「ウッ……叫びすぎて頭痛い……灯ぃ。 家まで連れて帰ってぇ」


「え、えぇ……」


「……陽さん、かなり酔っ払ってるし、時間も時間だから今日はもうお開きにしよっか。 2人とも家まで送るよ」


 流石にこの状況で告白するのは、雰囲気的にも勇気的にも無理だ。


「う、うん。 そうしよっか。 ごめんね、お姉ちゃんが迷惑かけて……」


「別に大丈夫だよ」


 うん、大丈夫。 まだまだ告白できる機会はあるはずだ。


 それに、前会った時は陽さん、大人の女性って感じだったんだけど、やっぱり灯と血が繋がってるんだってことがなんとなく分かって、なんか嬉しくなったよ。


「陽さん、俺も家まで送るので一緒に帰りましょう」


「ありがたやありがとや……神様、仏様、泉様」


「もうっ! お姉ちゃんしっかりして!!」


 灯が怒りながら陽さんの背中をバジバシ叩く。


 その度に陽さんはグエッと呻き声を洩らしていたのだった。

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