第43話 夏祭り ②

「う〜ん! ベビーカステラ美味しい〜! 焼きそばも美味しい〜!」


「灯、たこ焼き1つ食べる?」


「食べる食べる!!」


 俺たちは歩いて色々な屋台で食べ物を買う。


 焼きそば、ベビーカステラ、たこ焼き、かき氷……etc。


 甘い物からしょっぱいものまで、選り取り見取りだ。


「こういう場所の食べ物って、なぜか美味しいよね〜」


「それなー。 後は海の家のカレーライスとかもなぜか美味く感じる時あるよな」


「それめっちゃわーかーる!」


 俺たちは人が比較的少ない階段に座って食べる。


 灯のお尻の下には俺のハンカチが敷かれていた。


 もしもの為に、ハンカチを多めに持ってきておいて良かった。


 昔、都と祭りに行った時、座って浴衣が汚れたり、食べ物を溢して汚したことがあったからな。


 備えあれば憂いなしだな。


「あー美味しかったぁ!」


「なかなか食べれないから、ついつい色々買っちゃうよな」


「そうそう! 特に綿飴とか焼きとうもろこしって、祭りにしかないイメージだよね!」


「そう言われてみればそうだな」


 俺たちは立ち上がって、近くのゴミ箱に食器などを捨てる。


 すると、今度は灯の方から手を繋いでくれた。


「泉! 次は射的しようよ射的!」


「射的かぁ……何年ぶりだろ?」


 晴から欲しい物があるって言われ、泣き付かれたのっていつだったっけ?


 あの時なんとか取れたけど、その代わりに俺の財布は軽くなったなぁ。 今思えば、良い思い出なのかな?


「泉は射的したことあるの?」


「あるよ。 でも、片手で数えられるぐらいしかしたことない」


「でも、やったことあるなら私に色々教えてよ! 私、やったことないんだ」


「俺でいいなら教えるわ」


「やりぃ!!」


 灯は親指を立ててガッポーズをとる。


 そこまで期待されてるなら、ちゃんと期待に応えたいな。


「あ、射的あったよ!」


「ん?」


 灯が見ている先に視線を向けると、暖簾に射的と書かれている店があった。


 俺たちはゆっくり人混みの中を歩きながら向かう。


 店の中にはたくさんの景品が並べられていた。


 うわっ……あの戦隊モノフィギュア懐かしっ!


 俺たちが小学生の頃に放送してたやつじゃん。


 今の子ども達に需要あんのか?……いや、大きなお友達向けの景品かもしれないなあれ。


「私、あれが欲しい!」


 灯が指差す先にあったのは、可愛らしい犬のぬいぐるみ。


 そのぬいぐるみは、どことなく灯が飼っているマロンに似ていた。


「マロンちゃんに似てるね」


「泉もそう思う? やっぱり似てるよね!? 私、あれ絶対取りたい!」


 灯は胸の辺りでフンッとやる気満々なガッポーズを見せた。


「じゃあ、私やるね。 難しそうだったら教えて」


「了解」


「おじさーん! 1回お願いしまーす!」


「はいよー!」


 灯は店主から銃とコルクを貰う。 どうやら弾は3つまでみたいだ。


「よし! いくぞー!」


 灯は台に肘をついて、スナイパーのような姿勢を取る。


 目はとても真剣で、見つめるのは犬のぬいぐるみだけ。


 さて、どうなるか。


「えい!」


 1発目は大きく下にズレた。


「ほい!」


 2発目は横に逸れて、横にあったゲーム機の箱に当たった。


「えい!」


 3発目は少し上にズレてしまった。


「まぁまぁ、最初はこんなもんだよね。 おじさーん! もう1回お願いー!!」


「はいよー!!」


 それから灯は4回射的をした。


 結果は犬のぬいぐるみを取ることはできず、お菓子が何個か取れた。


「ぐぬぬっ……難しい! 泉! 教えて!」


「はいはい」


「次こそは取ってやるんだから……!」


 灯は闘志をメラメラと燃やす。


 そんな灯に対して、俺はアドバイスをするのだった。


「コルクはレバーを引いた後に詰めたら良かったはず」


「ふむふむ」


「後は景品の真正面じゃなくて、下の方から右上を狙うイメージの方が良いかも」


「分かった!!」


 俺のアドバイスを聞いた灯は撃っていく。


 すると、遂にぬいぐるみに弾が当たり、動かすことに成功した。


「よしよしよし! 当たった当たった! この調子この調子!」


「頑張れー!」


「頑張る!」


 しかし、灯の頑張りは虚しく、倒すことができない。


「くそっ〜〜! 良いところまで行くのにダメだー!! 泉、ちょっと私の後ろに立って! 構え方がいけないのかも!」


「わ、分かった」


 俺は灯の後ろに立つ。 少し視線を下に下げれば、魅力的な灯のお尻があった。


 突き出されてるお尻……なんだかセンシティブだな。


 って、ちがーう! 灯は真剣に頑張ってるんだ! 変な目で見るなよ俺!


「わ、脇がちょっと締まってないかも」


「こう?」


「いや、それは締めすぎな気がする」


「うーん……分からないから、ちょっと泉手伝ってよ」


「手伝ってってどうやって?」


「後ろから脇締めて」


「り、りょーかい」


 俺は言われた通りに後ろから脇を締める。


 なんだか灯に覆い被さっている感じになり、灯のお尻に当たらないように、俺はへっぴり腰でなんとか脇を締めた。


「ふむふむ。 こんな感じか。 ありがとね泉!! って、泉どうしたの? なんだか腰がひけてるけど」


「気にしないで」


「?? 分かった!」


 危ない。 色々と危なかったな俺。


 でも、もう大丈夫だ。 落ち着け俺。


「えいっ!」


 灯が銃を撃つと、ポンっと心地よい音が鳴り、弾はぬいぐるみの方へと向かっていく。


 すると、弾はぬいぐるみに当たり、遂に落とすことができた。


「や、やったーーーー!」


「落ちたぞーー!!」


「嬢ちゃん! 兄ちゃん! おめでとう!!」


 店主から灯は犬のぬいぐるみを貰う。


 貰った灯は目をキラキラと輝かせて、思いっきりぬいぐるみを抱きしめた。


 本当に嬉しそうで、ニコニコでぬいぐるみに頬擦りをしている。


 いいな。 羨ましいからそこ変わってくれよぬいぐるみ。


「泉のおかげだよ! ありがとう!」


「どういたしまして。 取れて良かったよ」


 いや、本当に取れて良かった。 これで取れなくて、お通夜状態で夏祭りを楽しむのは避けたかったからな。


「嬢ちゃん。 ナイスガッツだったな。 良かったらこれも貰ってくれよ」


「え、いいんですか!?」


「いいよいいよ。 売れ残り品だしな。 そこの彼氏としっぽり花火楽しんでくれや」


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


 店主から灯は花火の袋を1つ貰う。


 灯、ぬいぐるみが取れたおかげでテンション上がって気づいてないけど、このおじさんに恋人関係だと勘違いされてるんだよなぁ。


 ま、いっか。


 むしろ俺的にはそう見られてる方が嬉しいしな。


「泉! まだまだ遊ぶよ! 私についてきて!」


「はいよー!」


 灯はぬいぐるみが取れたことで上機嫌だ。


 そんな上機嫌な灯と俺は、存分に最後まで夏祭りを楽しんだのだった。

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