第36話 妹分とゲーム対戦
外から蝉の鳴き声が聞こえ、窓から見える木が風で気持ちよさそうに揺れている、ある夏の昼下がり。
俺は素麺を食べながらテレビを見ていたところ、インターホンが鳴ったので、めんどくさいと思いながらも玄関へと向かった。
扉を開けるとそこにいたのは私服姿の晴。
額には大粒の汗を浮かべていて、暑いと言いながら手をうちわ代わりにして扇いでいた。
「おう。 どうした?」
「暇だから遊ぼうよ!!」
晴はそう言って遠慮なく家へと上がる。
昔からこんな感じだったから、特に俺は反論することなく、家にあげた。
まだ素麺を食べているところだったから、俺は晴をリビングへと案内する。
冷蔵庫から麦茶を出し、コップに注いで渡すと、晴はゴクゴク音を鳴らしながら一気に飲み干した。
「ぷっはぁ〜! 暑かったから、キンキンに冷えてる麦茶が身体に染み渡るよ〜! いずみん、悪いんだけど、もう一杯貰っていい?」
「好きなだけ飲みな」
「ありがとう!」
ソファに座っている晴の前にピッチャーを置く。
晴は嬉しそうに麦茶を注いで飲んでいた。
「いずみん、ご飯食べてる時に来てごめんね」
「別にいいよ。 晴は昼食食べてきたのか?」
「一応ね」
「まだ、腹が減ってるなら素麺食うか? 都は用事でいないから、素麺食べきれないんだよね」
「残したらいいじゃん」
「残したら晩ご飯にも出てくるだろ? 別に素麺が嫌いってわけじゃないんだけど、2食連続で素麺は食べたくない」
「あーその気持ち分かるかも。 なら、ちょっと貰おうかな」
ソファから立ち上がり、晴は都の椅子へと座る。
俺は麺つゆが入った食器と箸を渡した。
「それじゃあいただきまーす」
晴はズルズルと素麺を啜っていく。
勢いよく啜る晴を見ると、やっぱり素麺はこうやって啜って食べるのが1番だよなと思った。
「今日はなにして遊ぶ?」
「私の今日の気分はゲームがしたい感じかな」
「それはボードゲーム? それともテレビゲームとか?」
「どっちでもいいよ」
「なら、テレビゲームするか」
俺はテレビの下にあるケースからゲーム機を取り出す。 ゲーム機は少し埃を被っていた。
「最近、あんまりゲームしてない感じ?」
「確かに最近家ではゲームしてないな。 でも、友達の家で最近ゲームして、ゲーム熱はまだあるんだよね」
「ふーん」
灯の家でやってからゲーム熱はあるんだけど、都とは都合がなかなか合わなくてゲームをすることができていない。
母さんも父さんもゲームはしない人だから、そうなると家でできるゲームってのは1人用になるんだよなぁ。
でも、1人用のゲームをそこまでしたいかっていうと、そういうわけではない。
別に嫌いってわけじゃないんだけど、今の感じだと対人戦だったり、パーティーゲームがしたい感じなんだよな。
「ご馳走様でした! それじゃあゲームして遊ぼうよ!」
「おう!」
晴は食器を片付けた後、ソファに座っている俺の横に座る。
今からやるのはカートゲームだ。
「これ久しぶりにやるー! 操作方法覚えてるかな?」
「それ、前も言ってなかったか?」
「そうだっけ?」
そんなくだらない話をしながらゲームを始め、俺たちは画面を見つつ雑談を始めた。
「都はどこ行ったの?」
「都は用事で朝早くから出かけたよ」
「ふーん……あ、いずみんは今日、この後大丈夫なの? 予定とかある感じ?」
「別に予定ってほどの予定はないな。 夏休みの宿題しようかなって思ってたぐらい」
「あー夏休みの宿題かぁ。 まだあんまり手つけてないんだよね」
「なんなら、今日一緒に宿題やるか?」
「まじ? いいの?」
「いいぞ。 むしろ早めにやっとくのがお互いの為にいいだろ」
毎年終盤になって助けを求められるのは風物詩となっているけど、もう中2なんだから計画的に進める努力はしないといけないな。
俺の為にも、晴の為にも。
「じゃあ、宿題する気になったら教えてよ。 一旦帰って道具持ってくるから」
「おーいいぞ」
俺たちはのんびりとした時間を過ごしながらゲームをする。
晴にハメ技を喰らったり、ショートカットやアイテムを使って逆転勝ちして怒られるみたいなことはあったが、久しぶりのゲームは楽しかった。
ゲームを始めて2時間。
そろそろゲームにも一旦飽きてきたので、俺達は夏休みの宿題をすることにした。
「とりあえず晴がめんどくさいと思う宿題1つと、ドリル系の宿題を何個か持ってこい」
「はいよー! じゃあ、待っててね」
「おう。 事故とかに気をつけろよ」
「分かってるってー!!」
晴は元気よく家から出て行く。 近所だから10分くらいで戻ってくるだろうな。
「ただいまー」
「え、早くない?……って、なんだ都か」
「なにその反応?」
玄関まで行くと、帰ってきたのは晴ではなく、私服姿の都だった。
「なに? もしかして誰か家に来る予定なの?……晴?」
「そうそう。 さっきまでゲームしてたんだけど、今から宿題する予定なんだよ」
「ふーん……なら、晴は宿題を取りに家に帰ったってとこ?」
「大正解」
「そっか。 私も一緒に宿題していい?」
「別にいいぞ」
都は終盤までためるタイプではないけど、決して早く宿題を終わらせるタイプではない。
「今年は部活も忙しくなるだろうし、早く宿題は終わらせたいんだよね」
「3年が引退したら、都達の代になるもんな」
「そうそう。 だから、まだ3年が引退していないこの夏休み序盤で、さっさとある程度は宿題終わらせときたいんだよね」
「頑張れー」
「うっわ。 毎年夏休みの宿題を計画的に終わらせるお兄ちゃんに言われると、なんだか腹立つわ〜」
「それは酷くない? 都がわからないとこあっても教えてやらねーぞ?」
「ごめんごめん。 お兄ちゃん無茶苦茶凄くてかっこいいので宿題手伝ってください」
「手のひら返しが酷すぎて笑うわー」
「お邪魔しまーす! って、都帰ってきてたんだ。 おかえりー」
「ただいまー! 晴もようこそお越しくださいましたー」
「それほどでもー! あ、今から宿題いずみんとするんだけど、都もしない?」
「するする! 私もさっきお兄ちゃんに頼んでたとこだったんだ」
「そうなんだ」
「とりあえず、玄関でずっと話すのはなんだから、さっさとリビングに移動しようや」
「「はーい」」
俺の言葉を皮切りに全員でリビングに行き、宿題を始める。
宿題を始めると母さんが帰ってきて、宿題が終わる頃には晩御飯の時間になっていた。
晴は母さんに誘われて一緒に晩御飯を食べる。
途中で父さんも帰ってきて、食卓はいつも以上に盛り上がったのだった。
「じゃあ、帰るね」
「俺も家まで晴を送ってくるわ」
「二人とも気をつけてねー」
都に見送られて俺たちは外へと出る。
上を見上げると、満点の星が輝いていた。
「今日は楽しかった! いずみん、遊んでくれてありがとね」
「俺も楽しかったよ」
「また、遊んでね! 約束だよ?」
「そう言って、いつも遊びに来るじゃん」
「ありゃ。 バレてましたか」
「バレてない方が可笑しいっての」
「それもそっか」
晴は楽しそうに笑う。
お互い徐々に大人になってきてるけど、この遠慮なく遊びに誘う、誘われる関係は切らしたくないな。
そんなことを、晴の笑顔を見ながら俺は思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます