第35話 夏休み開始
「テスト終わって夏休みだぁぁぁぁあ!!」
「補習ないなんて最っ高!!」
「…………テンション高すぎでしょ」
オレの目の前では、片桐さんと灯がハイタッチをしながらその場でクルクルと回っている。
まるでメリーゴーランドのように回っていて、ふわっと揺れる2人のスカートに目が少しいきそうになったのは秘密だ。
「むしろ高山がテンション低いんだっつうーの! どした? お腹でも痛いの?」
「いや、全然痛くないけど」
「なら、テンション上げていこうよ! 周りのみんなもテンションあげてるよ!!」
灯に促されて、教室をぐるっと見渡す。
大なり小なり、みんな夏休みに向けてテンションをあげていた。
ふむふむ……夏休み中に髪を染めるっていう話が聞こえるな。 それはちょっと興味ある。 俺もしてみようかな?
「でも、2人みたいにテンション爆上がりしてる人は見当たらねーよ??」
「そりゃあ、夏休みが補習で潰れるかもっていう可能性も、考えもない人たちばかりだからなぁ。 私達みたいな補習あるかないかギリギリラインの人とは違うよ」
「今までの成績で、補習の可能性があったのって私とななちんぐらいだよね」
「そうだよ」
「「ねー」」
「いや、2人とも顔を見合わせて嬉しそうに言っているのはどうよ」
全教科赤点なし、平均点40点台でこの喜び様……1年生の時はどんなテスト結果だったんだ?
……いや、考えるのはやめよう。
せっかく一緒に勉強して成績が上がったんだ。
その事実を兎に角喜ぼう。
「いやぁ、本当に嬉しいんだよ? 泉が私たちに勉強を教えてくれなかったらって考えると、ゾッとするもん」
「本当本当! これで親にもグチグチ言われなくてすむよー」
「まぁ、役に立ったんならいいや。 またテスト近づいたら勉強会するから、逃げないでくれよ?」
「あ、あはは……」
「それはその時のうちに任せる!!」
灯はそっと目を逸らし、なぜか片桐さんは胸を張ってドヤ顔をしていた。
理沙さんと大河さんに頼まれたからテスト前に片桐さん、後参加意思を出していた灯を入れて3人で勉強会をしたんだけど、まさか勉強会から逃げ出す事態まで発展するとは思ってもみなかった。
学校を走り回り、走っているのをゴリドラに見つかってチキチキレースを繰り広げたのは記憶に新しい。
「そういや、近々あの歌手がライブを開くかもっていう噂があるの知ってる?」
片桐さんが灯の机に座って俺の方を見てきた。
「知ってるよ。 県外であるかもしれないんだってな」
「隣の県とかならまだ遠征費とかもかからないだろうけど、飛行機とかでしか行けないところではライブして欲しくないなぁ」
灯が肘をついて顎の下に手を置き、一息吐いた。
「分かるー。 移動費だけでお金無くなっちゃうよねー。 できれば電車、もしくは新幹線で行ける距離だったらいいなぁ」
「まぁ、まずはチケット応募して当てないとな。 ドラマの影響でファンも増えて倍率あがってるらしいからな」
「うわぁ。 ファンが増えて嬉しい反面、有名になっていく寂しさみたいなの感じるわぁ」
「それめっちゃわかるわ!」
「私はまだ新規ファンだから2人の気持ちは分からないけど、いつか私もそっち側になるのかなぁ」
そんなことを教室で話しながら、俺たちの夏休みは始まったのだった。
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