第31話 ✳︎私の気持ち
「あれ? 泉君帰っちゃったん?……って、灯どうしたの??」
「顔真っ赤じゃない」
「うぅ〜! うゔぅぅぅ〜!!」
「え、本当にどうしたの!?」
「ちょっとリビングでしっかり話聞かせて」
私は玄関で泉を見送った後、へたへたとその場に座り込む。
そんな私を見て、お母さんとお姉ちゃんは私の両脇を持ってリビングまで連れて行ってくれた。
席に座るとお母さんが暖かい紅茶を淹れてくれる。
飲むと温かさでホッと心が少し落ち着き、香りを感じるぐらいには心に余裕が戻ってきた。
「で、なにかあったの??……泉君に、嫌なことでもされた??」
お姉ちゃんが両肘を机に置いて、鋭い目つきで聞いてくる。
隣のお母さんを見ても、険しい表情を浮かべていた。
「違うの。 嫌なことなんて1個もなかったよ! ただねーーーーーー」
私は今日1日あった出来事を2人に話す。
話し終えると、2人は険しかった表情が綺麗さっぱり消え、ニコニコ笑顔になっていた。
「あら〜〜! 娘に春が来そうでお母さん嬉しいわぁ」
「あー! 妹が可愛い! けど、青春してて憎たらしい! 私にもその甘酸っぱい感じちょうだいよ!!」
「うっ、うっさい!!」
くそぉ。 さっきまでは凄く心配そうにしてくれていたのに、今は揶揄う雰囲気満載だ。
「いやーこれも私のアドバイスのおかげかな?」
「そういえば、お姉ちゃんのあのアドバイスなんだったの?」
服装をパンツスタイルからワンピースにしろとか、パーティーゲームとか映画とかを色々貸してくれたけど、なんだったんだろうか?
「結構単純なアドバイスよ。 ただの色仕掛け」
「へっ? 色仕掛け?」
そんなに色仕掛けできるものあったっけ?
確かにワンピースは少し胸元開いていたけど……。
「あんたも女の子だからその辺は敏感だけど、ゲームとかでテンションが上がるとさ、ガードが緩くなるのよね。 きっと泉君、灯の無意識な色仕掛けにドギマギしてたんじゃない?」
お姉ちゃんはニヤニヤ笑いながら言う。
…………あ"っ! 確かに言われてみれば結構四つん這いになったり、身体を揺らしたかも……!!
「あらあら。 灯が顔を真っ赤にしたわ。 これは陽の言う通りかもしれないわねぇ」
「ふうぅ!! あざと可愛いなうちの妹はぁ!!」
「うっさいよお姉ちゃん!!」
嗚呼……ただでさえあんなことがあったから顔を合わせづらいのに、更に顔を合わせづらくなったじゃんかぁ!!
「でも、今回で色々気付けたことあったんじゃない?」
私が悶えているとお母さんが優しい笑みを浮かべながら聞いてくる。
それを見て、私は自分の気持ちを2人に話した。
「キスされそうになった時、私嫌じゃなかったの……」
確かに最初は驚いたけど嫌じゃなかった。
「それに、自分の意思で唇を突き出したの……」
キスしたい!っていう気持ちが私の中で湧いた。
「泉とキスするってどんな感じなのかな? 関係が変わるのかな?って思った」
私は泉との友達っていう関係が変わるのが怖いと少し思ったけど、それ以上に関係を変えたいっていう気持ちが上回った。
「お姉ちゃんが帰ってきて、キスが中断された。 私の心臓は飛び出るぐらいドキドキした」
少しの安心感があったけど、それ以上にキスが出来なかったことが寂しかった。
「ドキドキしながら泉の顔を見たよ。 そしたらさ、私分かっちゃったんだ。 嗚呼ーーーーーー私、泉のことが好きなんだ。 恋しちゃってるんだって!」
その気持ちに気付いてしまったら、私はもう前までの自分ではいられなかった。
なんとか頭を働かせて、場をおしまいにするしかあの時の私には出来なかった。
まぁ、気力を全部振り絞ったから、見送った後は玄関にへたり込んでしまったんだけどね。
「……そっか。 その恋、叶うと良いね」
「………うん」
お姉ちゃんが優しい笑みを浮かべながら頭を撫でてくれる。
優しい撫で心地が気持ちよかった。
「うぅ……灯も立派なレディに近づいているのね……お母さん、嬉しいけどちょっと寂しい」
「気持ち分かるよお母さん」
お母さんがちょっと涙目になって笑っていると、お姉ちゃんがウンウンと相槌を打った。
「今日、お赤飯でも食べる?」
「なんでよ」
「灯が恋した記念日で」
「そんな記念日いらないよ……どうせなら、泉と付き合えた時に食べたい」
「!! それもそうね! じゃあ、その時がきたら盛大に祝わないとね!!」
私達は笑う。
そんな私達を見たゴルフ帰りのお父さんは、目を白黒させていたのだった。
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