第32話 ギクシャク
「…………」
「…………」
キス未遂事件の次の日、普通に学校だったから俺たちは顔を合わせた。
お互い無言ってことはないんだけど、どこかギクシャクしていて上手く会話をすることができない。
それを見た片桐さんが不思議そうな表情を浮かべながら、俺を廊下に連れ出してなにかあったのか聞いてきた。
とりあえずなにもなかった、心配しなくて大丈夫とは伝えたけど、このままじゃいけないよなぁ……。
早く普段通りになりたい。
そんなことを思っていたが、時間はズルズル進み、今は6時限目の最中だ。
これが終われば残るのは掃除時間と、帰りのHRだけ。
この時間でなんとか普段通りに戻す方法を考えないと!!
そんなことを意気込んだが、良い案はなかなか思いつかず、ズルズル時間は進んでいく。
そして、ここまでかーーーっと思い始めた頃、ある事件が起きた。
それはーーーーーー
たったたたたたたたたん♪ たったたたたたたたたん♪
ーーーーーー授業中にスマホが鳴るという、学生なら一度は遭遇したことがあるかもしれない大事件だ。
その聞き慣れている音が鳴った瞬間、場は一気に変わった。
さっきまでの気怠げな雰囲気は一瞬で消え去り、今はどこか焦りを感じる雰囲気が流れ始めている。
ったく……どこの誰だかしらねぇけど、早く止めてくれよな。
「ゴホン! ゴホゴホ!!」
俺は別に喉は痛くないけど咳をする。
周りを見てると俺と同じような行動をしていたり、意味なく筆箱をパカパカしたり、物を拾うフリをして椅子を引いている人達がいた。
こういう時って謎の連帯感というか、助けてあげなきゃ!って気持ちになるよね。
「ゴホンゴホン! ウホウホゴホゴホ!」
しかし、スマホの持ち主は気づいていないのか、なかなか止まない。
くそっ! どこの誰だよ! みんながこうやってバレないように協力してくれているのに!!
俺は少しイラつきながら音の発信源の方を見る。
そこには腕を枕にしてスヤスヤと眠っている灯がいた。
おおぅ…………まじかよ。 貴方ですか。
いくら今の授業を担当している先生が、耳が遠いご高齢の仙人とはいえ、いつか気づかれてしまう。
なんとかしないと!!
「あっ! 消しゴム落ちちゃった!」
灯の前に座っている女の子が椅子を引いて消しゴムを拾おうとする。
その時、椅子が灯の机におもいっきり当たり、振動で灯が目を覚ました。
よっしゃぁ! でかした! ナイスぅ!!
灯は寝惚け眼の目を擦り、ゆっくりと音が鳴っている方を見る。
少しすると、寝惚け眼がカッと開き、完璧に目を覚ましていた。
いいぞ! 早く止めるんだ!!
「んじゃあ、この問題をーーーーーー」
しかし、タイミングが悪いことに、板書をしていた仙人がみんなの方を向く。
まずい! これはバレるかもしれないぞ!?
「ん? なんだか音楽が聞こえるようなーーーーーー」
仙人は俺たちの方を見る。 灯は顔を真っ青にしていた。
こうなったらーーーーーーーー
「はい! はいはい!! 先生! 俺が答えます」
「え、別にーーーーーー」
「俺が答えたくて堪らんのです! お願いしゃーーーす!!」
俺はおもいっきり立ち上がり、見事な礼をして見せる。
それを見た仙人は目をパチクリさせた後、オドオドしながら俺に答えを言うように言ってきた。
俺はできるだけ視線が集中する、時間を稼げるように変な小芝居を入れながら解答した。
俺が席に座る頃には音楽は止み、仙人は音楽が聞こえていたことをすっかり忘れて授業を再開する。
仙人が板書のために前を向いた瞬間、多くの生徒は胸を撫で下ろした。
「……泉。 ありがとう。 助かったよ」
「どういたしまして」
灯が小声で話しかけてきたので、俺は返事をする。
授業が終わると灯の周りには多くの人が集まり、苦笑いを浮かべながら灯と話をしていた。
しかし、スマホが鳴るという事件のおかげで、俺たちの間にあったギクシャクした雰囲気は無くなり、いつもの感じに戻った。
肝は冷やしたけど、結果オーライかな。
俺は片桐さんに背中を叩かれている灯を見ながら、そっと一息吐いたのだった。
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