第30話 好きな人の家に行こう! ②

「お邪魔しまーす」


「どうぞー!!」


 日曜日。 昨日よりは緊張がほぐれた状態で灯の家へと入る。


 玄関を見ると昨日よりも靴が少なかった。


「今日は恵さんと陽さんはいないの?」


「お母さんはいるけど、お姉ちゃんはバイトで、お父さんは友達とゴルフに行っちゃった」


「そうなんだ」


 俺は灯の後を着いて行き、昨日と同じように灯の部屋へと入る。


 中には昨日テレビ付近になかった、ゲーム機が置かれていた。


「あれ? ゲーム機なんてあったっけ?」


「なかったよ。 あれはお姉ちゃんが貸してくれたの。 今日はゲームしたり、映画見て過ごそうよ」


「おっ。 いいねぇ」


 ゲームも映画も好きだ。


 昨日みたいにダラダラ雑談するのも好きだけど、こういう友達の家に遊びに来た!って実感できる遊びも楽しいよなぁ。


「まずはパーティーゲームからする?」


「良いねぇ! 普通に双六とかしようよ」


「りょうかーい」


 俺たちはベットを背もたれ代りにして、足を伸ばして並んでゲームを始めた。


 最初は久しぶりのゲームに興奮して普通に楽しんでいたんだけど、途中からある問題が気になる様になった。


 それはーーーーーーーーー


「あっ! 赤マスに入っちゃった! 勿体ないことしたな〜」


 ーーーーーー灯の胸元やワンピースの中が見えそう、めくれそう問題である。


 昨日の服装はパンツスタイルだったのに対して、今日はVネックで胸元が少し開いているワンピースを着ていた。


 だから、ちょっと前屈みになると胸が見えそうになるし、お菓子とかを取るために膝をついて手を伸ばす時なんて、ヒラヒラとワンピースが揺れて綺麗な足が存分に出されている。


 見てはいけない。


 でも、見たいし、気になってしまうので、俺は悶々とした気持ちになっていた。


「あー! ミニゲームで負けて順位変わった!!」


「やったー! 暫定1位に乗り出した!!」


 ゲームはしっかり楽しんでいる。


 でも、気になってしょうがない状態のまま、ゲームはおしまいになった。


 中盤ぐらいまでは俺が1位だったんだけど、気になり始めてからは思う様な結果を出すことができず、結果はCPUを入れて4人中2位になってしまった。


 1位は灯だ。


「やったーー! 1位だぁ!!」


 灯は両腕をバンザイして喜ぶ。


 その時、背筋がピシッと伸びたことで、胸が強調されていた。


 …………試合に負けて、勝負でも負けちゃったな。


 でも、後悔はしていないよ……。


 俺は穏やかな気持ちになっていると、灯が映画を見ようと言ったので頷く。


 灯は四つん這いでいそいそとゲーム機を片付け始め、プレイヤーの準備を始めた。


「うーん……線が届かない」


 そう言って灯は身体を目一杯伸ばす。


 お尻は高く上がり、ワンピースが揺れて太ももがよく見えた。


 ……あ"あ"あ"っ! 気になるゔぅぅぅぅ!!


「?? 泉、膝に頭を埋めてどうしたの?」


「ちょっと精神統一をしてる」


「アハハッ! 可笑しな泉ぃ」


 誰のせいで可笑しくなってると思ってるんだ! 無防備な灯のせいだぞ!!


「今日見る映画どれが良い?」


 俺は叫びたい気持ちを抑え、灯が提示してくる作品を見る。


 その中から、サメがテーマの映画を見ることにした。


「これお姉ちゃんのなんだけどさ、見たことないんだよね。 泉はある?」


「ないなぁ。 題名は聞いたことあるけど」


 灯はクッションをぎゅっと抱きしめながら、正座をした状態で見る。


 サメが人を喰うシーンになったり、サメが海から突然現れるシーンになると、灯はビビり上がっていた。


 その度に、クッションはぎゅっと抱きしめられて形が変わる。 ついでに灯の胸も魅力的な形に変わっていた。


 …………おい。 クッションそこ代われ。


 俺は時々変なことを考えながらも、映画を楽しむ。


 灯もビビりながら楽しんでいた。


 そして映画を見終わり、灯が部屋の電気をつける為に起きあがろうとした時、ある出来事が起こった。


「きゃっ!」


「!! 危ない!!」


 正座をしている時間が長かったからか、足が痺れてた灯はフラつく。


 そのままだと机にぶつかりそうになったから、俺は急いで灯を抱きしめた。


 ある程度の衝撃と、灯の綺麗な黒髪が俺の顔にぶち当たる。 痛いと思うと同時に、良い匂いが鼻をくすぐった。


「ご、ごめん! 泉大丈夫!?」


「大丈夫大丈夫。 寧ろ、灯は怪我ない?」


「うん。 だいじょう、ぶ…………」


 俺たちは顔を見合わせると、思ったよりお互いの顔が近いことに驚いた。


 吸い込まれそうな綺麗な瞳が目の前にあり、少し視線を下げると潤っている唇が見える。


 更に視線を下に下げると、俺の胸板に灯の胸が当たって形が変わっていて、少しピンクの下着が見え隠れしていた。


「灯……」


「あっ……泉……」


 綺麗な灯の顔が間近にあって、視覚を刺激される。


 灯の優しくて甘い香りが俺の嗅覚を刺激する。


 灯の胸や手などの感触が、俺の触覚を刺激した。


 色々な情報がドバッときたことにより、俺は頭がボーとなる。


 現実なのに、夢を見ている様な気分だった。


 そんな気分だったからか、俺は無意識のうちにどんどん灯の顔に自分の顔を近づけていく。


 灯は最初目を見開いていたが、目をゆっくりと閉じ、顔を真っ赤にさせながら唇を突き出した。


 俺の唇と灯の唇が少しずつ、近づいていく。


 後少しでお互いの唇がくっつく。


 そんな時、玄関をガチャっと開ける音が聞こえた。


「ただいま〜。 あーバイト疲れたぁ!」


 陽さんの声を聞いた瞬間、俺の意識はクリアになる。


 どうやら灯も今の状況などに気づいた様で、湯気が出るんじゃないかってぐらい顔を真っ赤にして、おもいっきり俺から離れた。


「………………お姉ちゃん、帰ってきたみたい」


「……………そうだね」


「「…………………」」


 俺たちは顔を真っ赤にして、距離を取った状態で無言になる。


 お、俺、今キスしようとしたよな!?


 そんで、灯も目をゆっくり閉じて唇を突き出してきたよな!?


 ってことは、あれは合意ととってもいいよな!?


 えっ!? もしかして灯って俺のこと好きだったの?


 ええぃ!! もう色々と頭がこんがらがって意味わかんねぇ!!


 俺は頭を抱えたい気持ちになる。


 そんな俺に対して、灯は話しかけてきた。


「…………そろそろ時間も良い感じだし、今日はお開きにしよっか」


「………………おう。 そうすっか」


 俺たちはぎこちない雰囲気の中、お別れをする。


 帰り道、俺はあのままキスしたかったという欲望と、あそこで止まらなかったら何をしでかすか分からなかったから、止まってよかったという安心感に挟まれ、なんだか釈然としない気持ちのまま、家へと帰ったのだった。

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