第26話 ✳︎負けないんだから!
「あー……今日はどっと疲れたよ……」
「あはは……確かに急にあんな事言われると驚くよね。 泉、お疲れ様」
あれから私達はおばさん達と雑談をした後、ななちんの部屋で映画鑑賞会を行った。
今はななちんの家を出て、それぞれ家に向かって歩いているところだ。
「灯もお疲れ様……後、なんとかあの時流れを変えようとしてくれてありがとね」
泉は下を向いていた顔を上げて、私の顔を見ながらお礼を言う。
そんなお礼だなんて……私はなにもできていない。
寧ろ、よく分からないことを言って場をかき乱しただけだ。
ななちんと泉が付き合うかもしれない。
そう思ったら、私はおもわずなにも考えずに衝動的に話してしまった。
その結果、場に混乱を招いてしまった。
私、ほとんどあれとしか言ってないんだよ?
私自身が分かってないのに、他人に分かってもらうのは難しい。
いくらテンパってたとは言え、もっと他に言えることあったでしょ。
……はぁ。 自分が嫌になる。
「…………ふぅ」
「?? どうかした?」
「いやぁ、おばさん達の言ったことはインパクトあったなぁって思ってさ」
「確かにあったな。 久しぶりに心底驚いた気がするよ」
私はため息をついて、おもわず自己嫌悪に陥りそうになった。
でも、今は隣に泉がいる。
自己嫌悪に陥るなら、せめて1人の時に考えようと思ってなんとか話題を提供してみた。
泉は気づかずに私の話にのってくれる。
このままちょっと話してみよう。
「でも、あの提案って魅力的だったんじゃないの?」
「そりゃあ、片桐さんと付き合えるってのは魅力的だと思うよ」
その言葉を聞いて少しモヤッとした。
「でも、俺にはーーーーーーーいや、なんでもない」
泉は何かを言おうとしてハッとした表情になり、私から顔を背ける。
その言動を見ると、私の中にあったモヤモヤがドバッと一気に大きくなったような気がした。
なに? 私には言えないことなの??
「今、なにか言おうとしなかった?」
「い、いやぁ! してないよ!?」
「本当の本当?」
「本当の本当!」
「…………本当?」
「可愛く首を傾げても本当のことは本当なの!!」
私はちょっと可愛こぶってあざとい系女子を演じてみたけど、泉は口を割らなかった。
むむ……絶対なにか言おうとした!
…………むぅ。 なんだかモヤモヤがさっきより大きくなってきたんだけど!
ってか、よく考えばなんだか泉、私よりもななちんとの方が仲良くない??
私と話している時よりもななちんと話している時の方がフランクだし、お互い家で遊んでいるし両親に紹介している。
冗談を言い合って肩を軽く叩くとかのボディタッチをしている姿だって、時々見る。
でも、私にはボディタッチしないし、ななちんとは違う感じで関わられているような気がする。
それに、私の家で遊んだことがないし、私の両親とは会ったことがない。
…………あれ? なんだかモヤモヤがムカムカに変わってきたぞ?
私、ななちんに負けてない?
なにが負けてるの?って聞かれたら答えられないけど、なんだか負けてるような気がする。
いや、気がするじゃない。 負けてる!!
……………………………。
「泉。 来週の土日どっちか空いてる?」
「どっちも空いてるけど……えっ、どうしたの急に? いきなり満面の笑顔を向けられると戸惑うんだけど……」
泉は困惑しながら半歩私から遠ざかる。
そんな泉に対して、私は一歩近づいて話しかけた。
「なら、遊べるよね?」
「は、はい。 遊べます……」
「なら、土日ともに私の家で遊ぼっか」
「え、2日も灯の家で遊んでいいの!?」
「……いや?」
「全然嫌じゃないよ!? でも、急だったから驚いただけ。 なら、2日ともに遊びに行かせてもらおっかな」
「楽しみにしてるからね」
「俺も今から楽しみだよ」
私は泉と遊ぶ約束をして満足する。
しかし、家に帰って少し時間が経つと落ち着いてきて、自分の大胆な言動が恥ずかしくなって、当分の間、私は毛布から出ることができなくなったのだった。
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