第23話 ✳︎打ち上げ
みんなはテストが終わったらどんなことをする?
意気揚々と部活に行く人がいるかもしれないし、嫌々バイトなどに行く人もいるかもしれない。
ちなみに私はいつもテストが終わったら、打ち上げと言って色々なところに遊びに行っている。
カラオケや映画館、ゲームセンターやカフェetc……。
その日の気分によって行く場所は決まることが多い。
今回はななちんの希望で打ち上げ会場はカラオケになった。
いつもはななちんや他の女友達と来るんだけど、今日は違う。
今日は私とななちん、泉の3人という珍しいメンバーになっていた。
理由は泉が私達に勉強を教えてくれたから誘ったのと、どうやらななちんから泉に話があるらしいから、このメンバーになった。
「じゃあ、お菓子とかも届いたし、早速歌っていきますかー!!」
「「おーう!」」
今、私達の目の前にはたくさんのお菓子やご飯がテーブルに置かれている。
今日はテストだったから学校が終わったのは昼頃。 ちょうどご飯時だ。
「誰から歌う?」
「私は2番目がいいな」
「あかりんは2番目ね。 泉は?」
「トップバッターはちょっと荷が重いかな」
「ん。 なら、うちから歌っていくねー!」
そう言うと、ななちんはチョコ棒をボリボリ齧りながら慣れた手つきで曲を入れていく。
少しするとCMが流れていた画面は変わり、歌手の本人映像と同時に曲名が表示された。
今からななちんが歌う曲はななちんの十八番。
少し前に流行したJ-popだ。 ドラマの主題歌にもなって、若者から特に人気があった曲。
アップテンポで歌詞も良いから私も好きな曲だ。
「〜〜♪」
ななちんは気持ち良さそうに歌う。 身体全体を動かし、身体も使って歌を表現する。 力強い声は聞いていて心地よかった。
「すげぇ上手いな片桐さん。 バンド組んでボーカルしてるって言われても、全然疑わないレベルで上手いじゃん」
泉は目をパチクリさせながらななちんを見る。
「ななちん歌無茶苦茶上手いよー! ななちんの歌声を聞いて、バンド組もうって言う人多かったもん」
「そうなんだ。 でも、組もうっていう理由分かるなー……」
私達はななちんの歌声に聞き入る。 歌い終わった後は自然と拍手が出ていた。
「流石だねななちん」
「ありがとー! いやーやっぱりテスト終わりのカラオケは一味違うぜぇい!」
「なんだか親父くさいこと言ってるな片桐さん」
「はぁ!? こんな可愛いか弱い乙女に親父くさいとか、高山舐めてんのかぁ??」
「な、舐めてない舐めてない! だから、頭をグリグリするのはやめてくれぇ!!」
「あはははっ!」
「笑ってないで助けてくれよ灯!!」
ななちんに頭をグリグリされてる泉を見て、おもわず笑ってしまった。
いけないよ泉。 女の子に親父くさいはタブーだよ。
「んじゃあ、次はあかりんの番だね」
「うん。 何歌おっかなー」
私はななちんからマイクを受け取る。
いつもは恋愛ソングを歌うことが多いんだけど、泉の前で歌うのはなんだか気恥ずかしい。
だから、私はアイドルの曲を歌うことにした。
今流行の最前線を走っていて、テレビやCM、ネットにバンバン出ているアイドルの曲だ。
特にファンって訳ではないんだけど、あんだけ聞く機会があってみんなが知っている曲なら、歌わない手はないよね。
「おっ! これあれじゃん! あのアイドルグループの曲じゃん! どこでも流れてるよなー」
「今をときめくアイドルグループだしねー」
2人はお菓子を食べながら私の方を見る。
泉に見られていて緊張するけど、頑張って歌うぞ!
「〜〜♪♪」
私は画面の歌詞を見ながら一生懸命歌う。 気づいたら勝手に身体が揺れていた。
「〜〜♪♪」
「いいぞーあかりん! 可愛いよー!」
「可愛いよー!!!!」
あかりんも泉も笑顔で聞いてくれている。 良かった。 嬉しい気持ちよりも安心した気持ちの方が強いけど、とりあえず良かった良かった。
私は肩の力を抜いて楽しく歌う。 その間に2人が何かを話していたけど、私は歌を歌うことに集中していた。
「あかりん最高に可愛いでしょ?」
「うん。 可愛い。 愛嬌があるよね」
「それなー! 正直音痴だけど、人を不快な気持ちにさせない、なんだか聞いていて落ち着く音痴なんだよ。 むしろ、見て聞いてる人をほっこりさせる歌声。 あかりんの唯一無二の武器だと思うんだよね」
「この歌声をネットにあげたらバズりそう」
「それめっちゃわーかーるー!」
「〜〜♪♪…………ふぅ」
私は歌いあげる。
すると、2人とも盛大な拍手をしてくれた。 2人ともなんだか優しい眼差しなのが気になるけど、ま、いっか!
「次は泉の番だよ」
「じゃあ、歌わせてもらおうかな。 ちなみに言っとくけど、俺歌の上手さ普通だからな」
「またまたーそんなことを言ってお上手なんでしょぉ?」
ななちんが口元に手を置きながらクスクス揶揄うように笑う。
「ハードル上げるなって!」
「大丈夫! 泉の普通は普通じゃないと思ってるから!」
「それはどういう意味なの灯?? 意味合いによってはショック受けるかもしれないんだけど!」
そんなことを言っている間に、曲が流れ始める。 今季のドラマの主題歌を歌うみたいだ。
「よし。 やるぞ……!」
泉は歌い始める。 本当に歌の上手さは普通だった。
「〜〜♪♪………どうだった?」
「本当に普通で面白かった」
「その感想は可笑しいだろ片桐ぃ!」
「良かったよ! かっこよかった!」
「灯だけだよ褒めてくれるのは……」
泉は疲れたのか肩をガッカリと落とす。
確かに歌は普通だったけど、歌ってる姿はかっこよかったよ。………恥ずかしくてそこまでは言えないけど。
「じゃあバンバン歌っていきますかー!!」
ななちんの声を皮切りに、私達はドンドン歌っていく。
そして一通り楽しんだ後、オレンジジュースを飲んでいたななちんがふとなにかを思い出した。
「そういえばうち、高山に言わないといけないことがあったんだった」
「ん? そういえばそんな話あったね。 一体なんの話?」
泉は唐揚げを食べながらななちんに聞く。
私はコーラを飲んでいた。
「んにゃそんな大した話ではないんだよ? ただ、うちの母さん達が高山に会いたいからうちに遊びに来いって言ってるだけ」
「ごふぅ!?」
「ぶふぅぅぅ!」
「グァァァァァァァ! 目がぁぁぁぁ!」
ななちんの爆弾発言を聞いた泉は咽せたけど、すぐに目を覆う。
なぜなら私が吹き出してしまったコーラが泉の顔にかかってしまったからだ。
どうやら目に当たったようだ。 早く謝らないと。
「ゴボッゴホゴホッ!」
しかし、私もコーラが変なところに入ったのか咳き込んでしまう。
ななちんの発言で、一瞬で場は混沌とかしていた。
泉は目を押さえて、私は咳き込む。
そんな私達を見て、ななちんは腹を抱えて笑っていた。
「いや、普通そうなる!? おもしろー!」
ななちんはそんなことを言いながら私の背中を優しく摩り、泉にはおしぼりを差し出す。
私達はななちんに助けられながら、なんとかいつも通りに戻ることができた。
「なんで片桐さんの親御さんは俺と会いたいんだ?」
一通り落ち着いた後、泉はななちんに聞く。
そうだよ! なんでななちんのお母さん達が泉に会いたいの!?
「いやー今回のテストで赤点はないし点数自体が全体的に上がったじゃん? そのことについて母さん達に聞かれたから、高山達と勉強したこと話したら、是非お礼がしたい! 会いたいってしつこくてさぁ」
「そ、そうなんだ」
「頼む! めんどくさいかもしれないけど、うちの母さん達に会ってよ!!」
ななちんは手を合わせながら頭を下げる。
「ま、まぁそこまで言うなら是非お邪魔させてもらおうかな」
「まじで!? サンキュー助かるよぉ!」
泉の返事を聞いてななちんは嬉しそうだ。
でも、待ってほしい。
泉がななちんの家に遊びに行くのはなんとなく安心できる。 過ちがなさそうだから。
でも、ななちんの家に遊びに行く+親御さんとお話をする。
しかも、ななちんの親御さんの方から会いたがってるってのは全然安心ができないんだけど!
2人は予定を決めて行く。
それを聞いて私の中に出てきたモヤモヤは大きくなっていた。
だからか、気づいたら私は2人にこんなことを言っていた。
「私もななちんの家に行く!!!」
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