第22話 破壊神

 あんがい学校には壊れる物ってのはいっぱいある。


 例えばチョーク。


 チョークは力の加減を間違えれば直ぐに折れてしまう。 先生が板書をしている時、ポキッという音と共に、チョークが折れるのを見たことある人は多くいる筈だ。


 他にはロッカーなどがある。


 乱暴に掃除道具を閉めて開かなくなったり、友達とふざけあっている時にぶつかり、ロッカーが凹んだことを経験したり、見たことがある人はあんがいいる筈だ。


 俺も小、中、高を通して、色々物が壊れたところは見たことがある。


 しかし、流石に今回灯が壊した物は、今まで見たことがない物だった。


「……嘘でしょ?」


 隣の席の灯が思わぬ出来事に、思わず放心状態になる。


 さっきまで賑やかだった教室も静寂に包まれていた。


 しかし、多くの視線は灯の方へと向いている。 俺もその内の1人だった。


 授業が終わり、後は掃除と帰りのHRが終われば今日の学校は終了。


 そんな中、掃除の時間にある出来事が起きた。


 普段通りに椅子を机の上に乗せて、教室の後ろに持っていこうとする灯。


 椅子を机の上に乗せて机を持って動き始めた時、事件が起きた。


 なんと机が剥がれてしまい、土台以外の部分と椅子が床に落ちてしまったのだ。


 床に落ちたことで派手な音が教室に響き渡る。


 少しして中に入っていた教科書が、ザザッと雪崩のように落ちる音が聞こえた。


 俺達は何事かと思い、音の方を見る。


 そこには背中を仰け反らせて机の土台を持っている灯がいた。


 灯は思わぬ出来事に目をパチクリさせた後、状況に気付いて顔を少し赤くさせる。


 どうやらみんなにこの状況を見られるのが恥ずかしかったようだ。


「あ、灯。 怪我とかない? 大丈夫?」


 俺は少しして怪我の安否を確認する。 あんがい重い物が多いからな。 場所によっては大きな怪我になっているかもしれない。


「そ、それは大丈夫! 大丈夫だけど……机、どうしよう……?」


 灯は手に持っている机の土台を見て呟く。


 とりあえず俺はゴリドラに新しい机をもらうことを提案した。


 それを聞いてゴリドラを呼びに行く灯。


 その間に近くにいる人達で灯の持ち物とかを回収した。


 少しすると灯に連れられてゴリドラが来る。


 灯の机の状態を見て、思わず目を見開いていた。


「これは凄いな……。 永吉、怪我とかはなかったか?」


「それは大丈夫です」


「なら、良かった。 新しい机を持ってきてやるから、ちょっと待ってな」


 そう言って、ゴリドラは教室を出て行く。


 俺達はとりあえず床に落ちていた灯の持ち物を渡した。


「みんな、ありがとう」


 教科書などを灯は胸元に持っていき、ギュッと抱きしめる。


 そして、壊れた自分の机の残骸を見て、灯はポソッと呟いたのだった。






「私には、この机は弱すぎたのかもしれない……」


 そんな灯の迷言を聞いて、周りの人達はギョッと目を見開く。


 なんだか漫画とかである、力が強すぎて周りを傷つけてしまう、悲しいモンスターみたいなことを言い始めたぞ!


「そ、そんなことないって! ね、ねぇ!」


「そうだよ! 高山君の言う通りだよ永吉さん! 元気出して!」


「う、うん!」


 俺達は一生懸命灯を励ます。 


 すると、少しだけ灯は笑みを取り戻したのだった。


 しかし、やっぱり机が壊れたこととあの迷言はインパクトが強かったらしく、当分の間灯は影で『破壊神』というあだ名をつけられ、呼ばれていたのだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る