第21話 昼食戦争

 4時間目の授業が終わり、昼休みに入るとみんなどんな行動を取るだろうか?


 仲の良い友達同士で固まって教室でお昼ご飯を食べる?


 それとも部室でご飯を食べた後、サッカーやバスケなどの運動を仲の良い友達とする?


 中には食堂で静かに1人でご飯を食べる人もいるだろう。


 しかし、今日の俺はどれにも当てはまらない。


 今から戦争へと出向くのだ。


「それじゃあ今日の授業はここまで。 気をつけ、礼ーーーーーーーって、永吉ぃ! フライングすんなぁ!!」


「ゴリドラごめーん! でも、購買限定のカニクリームコロッケパンを手に入れるにはこうするしからなかったの!!」


「だからってそんな全力で走るんじゃねぇ! そして、高山ぁ! お前もなにちゃっかり動いてやがんだぁ! 足音もないとかお前は忍びか!!」


「すいません! でも今月お金ピンチなんで、できるだけ安くて量がある物を購買で買いたいんです! 許してください!!」


「心の底からの叫びだなおい!」


 俺は授業が終わると同時に教室を出ようとしたが、灯に先を越されてしまう。


 ゴリドラの静止で少し動きは止まったが、依然として俺の前には灯が走っていた。


「灯! そんなに本気を出すなんて珍しいじゃん!!」


「だって月に1度の限定カニクリームコロッケパンの日なんだよ! 先着20名限定! 高校入って1回しか食べれてないんだから、そりゃあ気合い入るよ!」


 灯の走るペースは全く落ちず、むしろ上がっていく。


 後ろから見える表情は燦々とした笑みで、獲物を狙う虎のような獰猛さがあった。


 くっ……別に買うものは被っていないけど、この昼食戦争で負けるのはなんだか悔しい!


 俺は時々しか昼食戦争には参加していないけど、欲しいものは必ず手に入れてきた。


 どんな強者達も押しのけて、目当ての物を勝ち取ってきた。


 なのに、普段はお弁当を食べていて、購買にも食堂にも近づかない灯に負けてしまうのか?


 いや、いいわけがない!


「うぉぉぉぉ!!」


「なにぃ!!」


 俺は細心の注意を払いながら廊下を走り、灯を猛追する。


 食堂の中にある購買までは後もう少し。


 入り口は目と鼻の先だ。


「負けてたまるかぁぁ!!」


「嘘ぉ! コーナーで踏ん張って、スピードを落とさずにおばちゃんのところに向かうだとぉ!」


 俺は入り口を開けて足の踵で踏ん張り、スピードを落とさずに購買へと向かう。 その時に灯を抜き、俺は1番に躍り出た。


「はぁはぁ! おばちゃん! ビックピザパンとビック焼きそばパンちょうだい!!」


「はいよー! 2つで220円ね!」


「ハァハァ……泉早すぎでしょ! どうなっての脚力!」


「俺の脚力はこの為に鍛えて鍛えてきたからな!」


「それ宝の持ち腐れじゃない!?……はぁ。 でも、早めに着いたから別にいいっか。 おばちゃん! カニクリームコロッケパン1つちょうだい! 後、チョココロネとコーヒー牛乳!」


「おっ! 嬢ちゃんが今日のカニクリームコロッケパン購入者第1号だね! おめでとう! 代金は600円になるよ!」


「やったぁ! 念願のカニクリームコロッケパンだぁ!」


 灯は息を切らしながらも、とても嬉しそうに笑う。


 いそいそと財布をポケットから取り出して、料金を払おうとした。


 しかし、ここでまさかの問題に陥る。


 それはーーーーーーー


「え、全部買うお金がない!?」


 ーーーーーーー所持金不足問題である。


 灯の財布には500円玉が1枚しかない。


 これでは全部買うことは不可能だ。 なにかを切り捨てないといけなくなる。


「え、ど、どうしよう! カニクリームコロッケパンは絶対食べたい! でも、カニクリームコロッケパンと牛乳だけだとお腹が減っちゃう! しかも、こうして悩んでいる間にどんどん人は来ているし……どうしよう!!」


 灯は大慌てで頭を全力で働かせる。


 しかし、刻一刻と人の波は迫ってきているのだった。


「どうするお嬢ちゃん?」


「え、えっと……」


「灯。 これ貸してあげるよ」


 俺は慌てている灯の手に200円を持たせる。 これで灯の欲しい物は全部買えるはずだ。


「で、でも泉! 今月ピンチだってさっき言ってたじゃん!」


「はっ! 困ってる女の子がいるんだ! ここで助けないと漢が廃るってもんよ!」


「泉……!!」


「いけぇ灯! 人波はすぐそこまで迫っているぞ!」


「うん! うん……!! 泉ありがとう! 泉のことは忘れないよ!」


「あれぇ!? なんだか俺の屍を超えていけみたいな感じになってない!?」


「おばちゃん! これで全部ちょうだい!」


「灯! 灯さん!? あの、灯さん!?」


「へへ……嬢ちゃん。 いい漢捕まえたな……!!」


「へへ……」


「あのお2人さん! 俺のことをそんな扱いにしないで! ってぇ、人波が一気に来たぁぁぁ!! う、うわぁぁぁぁ!!」


「い、いずみーーー!!」


 俺は人波に呑まれる。 落ち着くまで戻ることもできないし、進むこともできない!


「泉……ぜったい! 絶対に君のことは忘れないからぁぁぁ!!」


 灯は俺の勇姿を目に焼けつけた後、腕で目元を擦りながらその場を後にする。


 俺はそんな灯に必死に手を伸ばしながら叫んだのだった。








「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る