第20話 ✳︎女子会

「あ、行っちゃったね」


「んにゃろー! 逃げやがったなぁ!」


「どうどう晴。 落ち着いて落ち着いて」


 ふしゃーと猫のように怒っている晴ちゃんを、都ちゃんが宥める。


 今ここにいるのは女の子4人だけ。


 ハーレム状態から女子会状態へと変わっていた。


「まぁ、いいです。 それよりも私は灯さんと奈々さんに聞きたいことがあるんですよ!」


 晴ちゃんはそう言うと、机に手を置いて身体を前のめりにする。


 その圧を受けて、思わず私は身体を後ろに逸らしそうになった。


「ん? 聞きたいことってなに? 答えれることなら答えるよー」


「ぶっちゃけた話、灯さんと奈々さんはいずみんのことどう思ってるんですか!? 好きなんですか?」


 晴ちゃんの言葉に思わずドキッとしてしまう。


 やっぱり聞きたいことってのはそういうことだったのか。


「あたし? 高山のことは好きだけど、その好きは友達に向けるやつだよ。 あいつが良い奴なのは知ってるけど、恋愛対象じゃないかなー」


「そうなんですか……灯さんは!?」


「私?………私もななちんと一緒で泉のことは好きだよ? でも、私の好きは異性に対する好きなのか、友達に対する好きなのかは、正直分からないんだ」


 私が正直に自分の気持ちを伝えると、晴ちゃんはそうなんですね……っと呟いて、椅子へと座る。


 場に静寂が流れる。


 き、気まずい……!!


「まぁまぁ。 晴がお兄ちゃんのことを心配する気持ちは分かるけどさ、そこまで灯さん達を目の敵にする必要はないんじゃない?」


 都ちゃんが晴ちゃんの肩に手を置いて、優しく話しかける。


 それに対して、晴ちゃんは慌てた様子で都ちゃんに言った。


「べ、別にそこまで目の敵にはしてないよ!?」


「いや、声のトーンや目つきが完璧にヤバかったけど」


「嘘でしょ!?」


「本当本当」


 確かに晴ちゃんって私と初めて会った時も、警戒心持ってて私のことを鋭い目つきで見定めてたなぁ。


 ってか、もしかして晴ちゃん、無意識だったのかな?


「う、ご、ごめんなさい」


 晴ちゃんが頭を下げる。


 それに対して私たちは全然気にしていないということを伝えた。


 ……まぁ、実をいうと少しは気にしていたんだけどね。


「別にいいよ。 大好きな兄貴分に急に女の子が2人も近づいたんだ。 しかも、こんな絶世の美女2人なら、妹分として色々心配になるわな」


「絶世の……美女……? ふた……り?」


「んーー? そこに疑問を持つ悪いお口はこれかなーー?」


「い、いひゃい! ななちんいひゃい!!」


 ななちんが私の頬を掴むから、私の口はOみたいな形になる。


 やめて! 年下の女の子達が見てるんだから、こんな不細工な顔を晒すのはやめて!


「もう! 痛いよ! まったく……でも、ななちんの言う通りかも。 確かにいきなり異性の友達ができて仲良くなってたら、晴ちゃんからしたら寂しかったり心配するかもしれないね」


「灯さん……」


 晴ちゃんが私のことをジッと見る。


「でも、確かに私たちの人柄とか分からないと不安だよね……だからさ、もっと私達のこと知ってよ。 そして、私たちに晴ちゃん達のこと教えて欲しいな」


「「灯さん……」」


「都ちゃんと晴ちゃんはなにが好きなの? 私はねーーーーーーー」


 私は2人に好きなことや、得意なことを話す。


 すると、2人とも色々自分のことについて教えてくれた。


 そこにななちんも入って、最初とは比べ物にならないぐらい場が盛り上がる。


 雰囲気も少し緩い感じのものになり、穏やかな時間が流れていた。


 しかし、ななちんによってその時間は止められてしまった。


「あかりんってさ、学校では『残念美少女』とか、『電波乙女』とか色々なあだ名つけられてるんだよ」


「え、なんですかそれ……?」


「あ、もしかして灯さんといずみんが言ってた、灯さんがモテないって発言も、それと関係あるんですか?」


「え、なにそれ。 私初耳なんだけど!?」


「や、やめてくれーななちん! それは勘弁してくれー!!」


「いや、どうせいつかは知ることになるんだから、今言った方がいいでしょ」


「知ることにはならないはずだからぁ! 頼むからもうちょっと年上のお姉さんムーブをさせてよぉ!!」


「え、灯さんがあそこまで取り乱すなんて……」


「晴、とっても気になっちゃいます」


 私は逃げて話そうとするななちんを止めるために席を立ち、手を伸ばす。


 しかし、そんな私を止めたのは都ちゃんと晴ちゃんだった。


 晴ちゃんは私の後ろからおもいっきり抱きつき、都ちゃんは前におもいっきり抱きつく。


 美少女サンドイッチの完成だ。


「で、でかい……うぅ……羨ましい!」


「ちょっ! ちょっと都ちゃん!? そんなに胸に顔をうずめないで!!」


 都ちゃんが私の胸の中で頭をグリグリさせる。


 女同士でも恥ずかしかった。


「いや、初めて会った時から大きいなとは思ってましたけど、本当に大きいですね……おぉ……」


「自分も立派な物お持ちじゃん!? 晴ちゃん揉まないでぇ!!」


「やめろぉ! そのお胸様はあたしのもんだぁ!!」


「ななちんの物でもなーーーい!!」


 私達はてんやわんやの大騒ぎ。


 結局、ななちんは全部話しちゃうし、買い物から帰ってきた泉には、あられもない姿を見られてしまった。


 でも、勉強はいつもより進んだし、都ちゃんと晴ちゃんともっと仲良くなることができた。


 色々犠牲を払ったけど、結局プラスになることが多かったかな?


 そんなことを思いながら、私達は泉の家を出てそれぞれの家へと帰ったのだった。



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