第5話 連絡先
「高山君。 あっちの机達運んでくれる? 私はこっちの椅子を片付けるから」
「りょーかい」
誰もいない教室で俺達は話をしながら手を動かす。
普段はたくさん人がいて賑やかな教室も、今は静かでまるで別世界にいるようだった。
ふと外を見てみると、運動部の生徒が元気よくランニングをしている。
耳を澄ますと、遠くから吹奏楽部の演奏が聴こえてきた。
なんだかいいな。 放課後の学校ってやつも。
「なんか人があんまりいない教室って不思議だよね〜。 私、この感じけっこう好きだな」
永吉さんは椅子をどんどん机に載せながら話す。
俺は机を教室の後ろの方に移動させながら返事をした。
「分かるわ。 この雰囲気ってなんだか落ち着くよな」
「分かってくれる? いや〜最初は教室の掃除嫌だなって思ったけど、案外良いもんだね」
箒で掃き掃除をしながらモップで床を拭く。
普段見るフローリングの床がいつもより綺麗になっていた。
「なぁ、永吉さん」
「ん? なぁに?」
永吉さんは机から椅子を下ろして、丁寧に椅子を中に入れていく。 顔は椅子の方を向いていた。
「連絡先、教えてくれない?」
「えっ……?」
俺の言葉を聞いた永吉さんはビックリした表情で俺の方を見る。 俺はそんな永吉さんの顔をしっかり見ながらお願いをした。
「永吉さんの連絡先、知りたいんだ」
「ふ、ふ〜ん。 それはなんで?」
「もっと永吉さんと仲良くなりたいから」
「へ、へぇ〜そうなんだ〜! 私と仲良くなりたいんだ! うん! 仲良くなりたいんだ!」
永吉さんは俺のストレートな思いを聞き、照れる。 顔は少し赤くなっていて、顔を下の方に向けていた。
これが漫画だったら、汗マークが頭付近に浮かんでいるな。
「駄目……かな?」
「いや、全然駄目じゃないよ! うん! 駄目じゃない!」
「じゃあ、SNSのアカウント教えてくれる?」
俺達は箒やモップを片付けた後、教室で連絡先を交換する。
俺のスマホに映っているのは『あかり』という文字と、犬が写っているプロフィール画像だった。
「永吉さんって犬飼ってるの?」
「そうなの。 トイプードルで名前は『マロン』って言うんだ」
「可愛いな。 俺も柴犬飼ってるんだよ。 名前は『コタロウ』。 見てようちの子」
「うわっ! かっわいい〜! でも、うちのマロンも可愛いんだよ!」
「どれどれ……いや、それは卑怯でしょ! 寝顔なんて絶対可愛いのはもう決められてることじゃん!」
俺達はお互いのスマホを見せ合いながら、自分が飼っている犬の自慢大会を始めた。
そして、今度一緒に散歩しようと約束をして、職員室の先生に掃除が終わったことを報告してから、お互い帰路についたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます