第4話 腹の虫
誰だって生きていて『腹の虫』が鳴ったことはあると思う。
それは空腹が理由だったり、特に理由が見当たらないのに鳴ることだってある。
鳴ってほしくない時に鳴りそうになる、鳴ってしまったなんてことは誰もが経験したことがあると思うし、鳴るのを阻止しようとしたことがあるはずだ。
かくいう俺もけっこう体験したことがある。
あんがい鳴ると恥ずかしくて、穴があったら入りたい状態になるんだ。
そして、現在。 今、隣の席に座っている永吉さんは、穴があったら入りたい状態になっていることだろう。
ぐぅぅぅぅぅ……!!
「…………!!」
本日2回目のお腹の音が鳴る。 静かな授業中の教室にはその音が響き、きっとクラスメイト全員がお腹の音を1回は耳にしていた。
「…………」
永吉さんは恥ずかしさからか、教科書を立ててその間に顔を伏せる。 手はお腹に当てられていて、なんとか音が鳴らないように努力しているのが窺えた。
「……これ、あげるよ」
俺は先生にバレないようにしながら、カバンから飴を取り出して永吉さんに渡す。
顔を上げた永吉さんは顔が真っ赤で、涙目になっていた。
「あ、ありがどう……」
「誰でもお腹鳴るからそんなに気にすんなよ」
「でも、大きな音が2回だよ……絶対みんなに誰が鳴らしたかバレちゃってるよぉ……うぅ、穴があったら入りたいぃぃぃぃ」
永吉さんは右頬を机にくっつけてながら俺の方を見る。 左頬は飴玉で少し膨れていた。
「うぅ……ダイエットの為に朝ごはん抜くんじゃなかった。 早くお昼になってぇ」
「え、朝ごはん食べなかったの?」
「うん」
永吉さんダイエットする必要あるか? 出るところはしっかり出ていて、引っ込むところはキュッと引っ込んでいるように見えるけど……いや、女性と男性でのダイエットの価値観は違うはずだ。
ソースは俺の妹。 あいつも別に太っていないはずなのに、しょっちゅう太ったからダイエットしなきゃ〜って言ってるからな。
「体調崩さないようにほどほどにしなよ」
「うぅ……分かったよお母さん」
「だーれがお母さんじゃあ!」
「高山君。 ちょっと静かにしてね」
「あ、はい。 すみませんでした」
俺が永吉さんにツッコミを入れると、先生に注意されてしまった。
可笑しい。 これは許されない。
「お母さん怒られてやんのー」
「お母さんじゃねーよ」
「泉にいたま怒られたんですかー??」
「にいたまってなんだよ!?」
「高山君」
「……はい」
「あと、永吉さん。 2人とも放課後職員室に来るように。 いいですね」
「え"っ」
無茶苦茶驚いてるけど、明らか俺たち2人が目立ってるんだから、永吉さんも呼ばれるのは普通でしょ。
「ま、まあこのやり取りのおかげでお腹の音のことはみんな印象薄くなったでしょ。 うん、そうに違いない」
「永吉さん……」
「…………高山君。 迷惑かけてごめんなさい」
「別にいいよ」
好きな女の子が恥ずかしがってることを上書きできたのなら、俺は全然問題ないよ。
「とりあえず、放課後になったら一緒に職員室行こう」
「うん」
俺達は授業へと意識を戻す。
そして、放課後一緒に職員室へと向かい、居残り掃除を先生に言い渡されたのだった。
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