第2話 席替え
「お前ら! そろそろ席替えしたいっていう声が上がっているから、今日は席替えすんぞー!」
担任の先生が教卓に立って大声を張る。
それを聞いて生徒達は色々な反応を見せた。
みんなにとって席替えってどんなイベントだろうか?
好きな人が隣に来るかもしれない楽しいイベント?
それとも、嫌いな人が近くに来てしまうかもしれない嫌なイベント?
自分には特に関係ないイベント?
人によって思いは違うと思う。
ちなみに、俺にとっては好きな人が隣に来るかもしれない楽しいイベントだ。
もし俺の隣が永吉さんになったら、俺は嬉しくて机の下で誰にも気付かれずに握り拳を作って、喜ぶだろう。
そして今、俺は机の下で握り拳を作っている。
つまり、そういうことだ。
「今日からお隣さんとしてよろしくね、高山君」
「よろしく永吉さん」
永吉さんはニコッと笑って俺に声を掛けてくれた。
俺の隣に永吉さんがいる。 それだけで周りの景色が輝いて見えた。
「こうやってまともに話すのは初めてだよね」
「そうだな」
前はお互い平常心保ててなかったらな。 今はお互い平常心保てているし、下手にエアギターの件は蒸し返さないようにしよう。
「前話したのって、あの時、だよね……」
「……うん」
俺が蒸し返さないようにしようと決めた矢先に、永吉さんが自分からぶっこんでくる。
最初は楽しそうに笑っていたのに、今は顔を斜め下に逸らして気まずそうにしていた。
……ねぇ! なんで自分からぶっこんできて自爆しちゃってるのこの人!?
「……」
「……」
周りはわちゃわちゃ楽しそうにしているのに、俺たちの間にあるのは沈黙。
俺も思わず顔を逸らし、左側にある窓からの景色を見て、現実逃避をしてしまいたくなってしまった。
でも、そういうわけにはいかないから俺は頑張って永吉さんに話しかけた。
「そ、そういえばさー! 永吉さんって1年生の時何組だったん? 俺はB組だったんだけど」
「え、あ、うん。 私はF組だったよ!」
「F組ってことは担任の先生仙人だったん?」
仙人っていうのは古典のお爺ちゃん先生のあだ名だ。
白い立派な髭が口周りに生えていて、喋り方ものほほんとしていることから仙人と呼ばれている。
優しい性格で生徒たちからとても好かれている先生だ。
「そうだよ。 仙ちゃん無茶苦茶優しくて良い先生だったなー! 勉強苦手な私に根気強く付き合ってくれたの。 もう仙ちゃんには足向けて寝れないよ」
「仙人ってあだ名の通り、凄い人なんだな」
ってか、永吉さんって勉強苦手なのか……。
「今のゴリドラも嫌いじゃないけどさ、やっぱり仙ちゃんが1番良かったかな」
ゴリドラとはうちのクラス、2ーC組の担任だ。
筋肉隆々でこんがりと焼けた茶色い肌、刈り上げた髪に鋭い目付き。
そして、ゴリラのドラミングが異常に上手いことからゴリドラというあだ名がつけられている。
「ってか、ゴリドラってあだ名ヤバくない? ゴリラのドラミングが上手いとか普通に過ごしてたら気づかないって!!」
永吉さんは笑いながら軽く自分の胸を叩く。
豊満な胸が振動でプルンプルンと揺れていた。
普段なら胸に視線がいっていただろうけど、俺の視線は別のところに向かっている。
具体的に言うと、永吉さんの後ろに立って青筋を立てて怒っているゴリドラの顔だ。
「永吉ぃ……」
「……へ?」
永吉さんはギギギと錆びついたボトルを回すかのように、顔を動かす。
ゴリドラの顔を視界におさめた瞬間、永吉さんの口元は引き攣り、ピクピク動いていた。
「ち、ちゃうねん!」
「なぁぁにがちゃうねんやぁぁぁぁぁ!!」
「い、いだい!! 痛いよゴリちゃん!」
「先生をゴリちゃんと呼ぶんじゃねぇぇぇ!!」
永吉さんはゴリドラに頭を鷲掴みにされる。
永吉さんは涙目になりながら必死にゴリドラに謝った。
結局、永吉さんは許してもらえたけど、宿題をいつもの倍出された。
宿題を手渡しされた時の永吉さんは魂が抜けていて、それを見た俺含めクラスメイトはそっと永吉さんから顔を背けたのだった。
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