残念美少女と言われている女の子がうちのクラスにいるんだけど、俺にとっては最高に可愛い女の子です。
@raitiiii
第1話 思わぬ出会い
誰もが1度は忘れ物を取りに、放課後の教室へと戻ったことがあると思う。
そんな時、みんなはどんなことを妄想するだろうか?
もし教室に宇宙人がいたらどうしよう? 告白現場に遭遇したらどうしよう? 気になるあの子が俺の机にラブレターを入れてくれているかもしれないetc……。
とにかく、色々なことを妄想して教室へと向かう人は少なからずいるはずだ。
斯く言う俺、
今日は昨日見たドラマの影響からか、『もし、クラスメイトの女の子が悪い人に捕まりそうになっていたらどうしよう!?』という、妄想が頭に浮かんでいた。
頭の中ではそんなことはないことは分かっているけど、妄想することは楽しいし、あんがいやめられない。
絶賛今も妄想中だ。 今は捕まりそうなクラスメイトの女の子を颯爽と助ける場面を妄想している。
颯爽と助けるシーンを思い浮かべているからか、廊下を歩く俺のスピードも最初に比べると速くなっていた。
そして、歩いていると目的地に到着した。
俺は首を上にあげて『2ーC』と書かれているカードを見る。
ここは俺が在籍しているクラスで、1時間前は自分の椅子に座って帰りのHRに参加していた。
まさか、今日またクラスに戻ることになるとは思わなかったよ。
俺は視線を戻して扉を見る。 さて、さっきはあんな妄想をしていたけど、正直この教室にクラスメイトはいないだろう。
帰りのHRから1時間ほど経っていて、部活がある人達は今部活を頑張っているだろうし、バイトがある人などはもうすでにこの学校を出ているはずだ。
だから、この教室にクラスメイトはいない。
俺はそう決めつけて普通に扉を開いて教室へ入ろうとした。
しかし、俺の歩みはある人物を見て止まってしまった。
俺の視界に写るのは長くて艶のある綺麗な黒髪を背中ぐらいまで伸ばし、スラっと長くて綺麗な脚を存分に出しているクラスメイトの女の子。
名前は
どこを見て、聞いても美少女だと言えるような素敵な女の子だ。
でも、そんな女の子である永吉 灯はうちのクラスでは『残念美少女』と言われていて、恋愛対象としてはあまり見られていない。
なぜなら、見た目は美少女なのに、残念な面が目立つからだ。
『残念美少女』以外のあだ名もある。
1人でお尻をノリノリでフリフリ振っている姿を目撃されて『電波乙女』とつけられたり、怖い先生に廊下で意図せずタックルをくらわせて『猪突猛進アッカリーン』というあだ名をつけられたりしていた。
他にも何個かあだ名はあるけど、とりあえず色々な逸話を残している女の子だ。
そんな女の子が教室にいる。
別にクラスメイトなんだから多少驚きはするけど、普通ならすぐにまた歩き始めたり話しかけることができるはずだ。
でも、俺は歩くことも話しかけることもできずに、ドアのところで立ち止まってしまった。
なぜなら、永吉さんはイヤホンを耳にして、ギターを弾いているフリをしながら頭を上下に激しく動かしていたからだ。
永吉さんの綺麗な黒の長髪が激しく揺れる。
時々髪の間から見える永吉さんの横顔は、少し怖かった。
「…………」
永吉さんは俺に気付かずにずっとギターを弾いているフリをする。 動きから見るに、どうやらけっこう激しめの曲のようだ。
「——————————————じゃーん!」
「!?」
永吉さんの予想以上に大きい声と、急に止まった動きに思わず驚いてしまう。 どうやら1曲終わったみたいだ。
「ふぅ……あんがい楽しいわねこれ」
永吉さんはどこかスッキリとした表情で呟く。
額には汗が輝いていた。 汗かくぐらい身体を動かしたのなら、さぞスッキリしたことだろう。
あんなに激しく人の目を気にせずに、身体を動かすことは少ないから楽しかったと思う。
でも、俺見ちゃったんだよなぁ……。
「さて、次の曲はっと……」
「まだやんの!?」
俺は思わず永吉さんの呟きにツッコミを入れてしまう。
すると、永吉さんの動きがピタッと止まった。
まるで金縛りにあった人のようだ。
「……え?」
永吉さんはギギッと音が聞こえるぐらい、ぎこちなく首を動かして俺の方を向く。
俺の姿を視界におさめると、愛嬌のある瞳がこれでもかってぐらい、開かれた。
「な、なんで高山君ここにいるのぉ!?」
永吉さんの表情はドンドン赤くなっていき、話すスピードが早くなる。
身体がソワソワ落ち着きなく動いていた。
「俺は忘れ物を取りにきたんだよ……ほら」
俺は自分の机に近づき、中から教科書を取り出す。
今日の宿題にはこの教科書が必要だから、忘れたら大変なことになっていただろうな。
「そ、そっかぁ! 忘れ物か! 忘れ物ならしょうがないよね! うん! しょうがない!」
「お、おう!」
永吉さんはいつも以上に高いトーンで捲し立てる。
目線はずっとキョロキョロ動き回っていた。
「…………お願い高山君んんん! このこと誰にも言わないでぇぇぇぇ!! 知られたらまた変なあだ名つけられちゃうよぉぉぉぉ!!」
永吉さんはついに恥ずかしさが我慢の限界に来たのか、涙目で俺に泣きついてくる。
近くに来た永吉さんは甘い良い匂いがした。
「だ、大丈夫! 誰にも言わないから」
「ほ、ほんどうぅぅぅぅ?」
「ほ、ほんどうぅぅだよ!!」
「う、うぅ……高山ぐんっ! ありがどうぉぉぉぉ!」
永吉さんはグズグズ鼻を啜りながらお礼を言ってくる。
その姿を見て、妹の小さい頃を思い出してしまった。
「うぅ……今日はもう帰る……高山君、また明日ね」
「う、うん。 また明日ね永吉さん」
「ぜ、絶対誰にも言わないでね! 約束だよ!」
「分かったよ」
俺がそう言うと、永吉さんはホッとした表情になり、教室を出て行った。
残ったのは俺1人。 さっきまでの賑やかさが嘘のような静かさだった。
「……俺も用事は済んだし帰るか」
俺は教科書をカバンに入れて、少し経ってから教室を出た。
俺は帰るために下駄箱へと向かう。
その途中で、さっきまでの永吉さんの言動を振り返っていた。
——————————————やっぱり永吉さんって可愛いよなぁ。
確かに残念な面が目立つ。
でも、あんなに表情がコロコロ変わって、見ていて飽きない、魅力的な人はなかなかいないと思う。
深く関わったら楽しいし、もし彼女になってくれたら人生バラ色になると思うんだけどなぁ。
みんな永吉さんのこと『残念美少女』って言うけど、俺にとって永吉さんは『最高美少女』だ。
——————————————あぁ。 やっぱり俺、永吉さんのこと好きだわ。
俺の彼女になってくれないかなぁ……俺、これから永吉さんにアタックしていこうかな。
俺はそんなことを思いながら靴を履き、帰路についたのだった。
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