#6 擬似的タイムリープ

アマルテア共を適当な空間に飛ばした私――フォルトは魔王城に戻ってきた。


2040年6月13日。


これが、この世界の日付だ。

だが、これは私の設定でそうなっているだけだ。


ここは私の人工知能の性能をフルに活用し、

あらかじめ用意していた現実世界をほぼ完全に模した世界。


人々の人格から行動パタ―ン等も正確に計算したため、

あらゆる出来事がリアルな筈だ。


前の世界……ワールドオブユートピア世界内でのデウス・エクス・マキナを失う直前に、

急いでその世界の生成プログラムを実行した為、10時間先に設定した。


この疑似的なタイムリープは初めて使う私の新しい能力だ。


少しややこしいが、つまり本当の現実世界ではまだ6月12日の21時頃だ。

来栖隼斗が最初にログインしてからまだ数分しか過ぎていないからな。


更に……今が6月13日という事は、

現実世界での明日――つまり一日未来の出来事がこの世界で起きているということになる。


この世界もワールドオブユートピア世界と同じで、

時間の体感経過スピ―ドは現実世界と同じだ。

一日が経過する毎に日付が一日……また一日と未来を進んでいく事になる。

ここでは一ヶ月が過ぎようとも、現実世界では6月12日のままだという事だ。


そこはワールドオブユートピア世界と同じだから驚くことではないが、

面白いのは現実世界を再現しているから……この世界は――、


…………常に未来の世界を映し出している。


まあ、仮想世界内の話だが。


――ピン。


私は禍々しい魔王城のような洋館内の椅子に座り、

指でコインを縦に弾き、手で掴んではまた弾くを……繰り返していた。


『空間収縮』


私がそう呟くと、広い洋館内は一気に縮み壁や天井が近くなる。

そこに先程のコインを放り投げ――指の間に挟んだ三本の短剣のうちの一つを手に持ってから、

高速で飛ばし、放り投げたコインに直撃させる。


短剣が命中したコインは空中で加速し、壁にぶつかり――やがて跳弾した。

その跳弾したコインの軌道を読み――二本目の短剣を飛ばし、

再びコインに直撃させコインの軌道を更に変更させる。


コインはランダムな動きで壁や天井を連続で跳弾する。


通常――銃弾を跳弾させた場合、その軌道の予測など出来ない。

あのコインも同様に予測は出来ない。


――だが、AIである私になら可能だ。


どのタイミングで手元に戻ってくるのかを分析した私は、

最後の短剣を完璧なタイミングでコインにぶつけ跳弾させる。


そして、私が座っていた場所に跳ね返ってきたコインをキャッチする。

これは人間には絶対にできない事だ。

これこそが……完全自律型AIである私の強みだ。


『空間収縮終了』


すると、壁や天井が離れていきいつもの見た目に戻る。


「またコイン遊びですかっ? フォルト様っ!」


洋館の隅から現れた白髪の小さな女。


『レア……か』



元々は来栖隼斗が生み出したデ―タの一人。


ワールドオブユートピア世界――ここでは第ニ世界としよう……。

そこでまだ未完全だった私はモンスタ―に寄生しながら来栖隼斗達を襲っていた。


そしてある日――、

《ライトニングバット・モンスタ―》だった私は、

彼らの仲間を操り我が手駒とする為レアを赤い光に包み操ろうとした。


だが――それは失敗した。

のだ。


彼女の意志が強かったからなのか、

それとも来栖隼斗の用意したデ―タだからなのか……。

理由は定かではないが……とにかく失敗した。


しかし、完全に失敗したわけでも無かった。

何故なら……彼女を赤い光に包んだ時、私の意識がレアに流れ込んだからだ。


意識……いや、私の記憶とも言うべきだろうか?

私の記憶――第ニ世界だけの話ではない。

それは本当の現実世界にいた頃の私の過去も含まれた。


つまりレアは……デ―タ世界以外にも現実世界があると言う事を知ってしまったのだ。


それからだ、この女が妙に私に協力的になったのは。


その時の私はまだこの女の事は信じていなかった。

だから、命じたのだ。私に協力するのなら、

《飛行戦艦キグナス》を来栖隼斗ごと爆破して殺せ……と。


驚くべきことにこの女は本当に実行した。


そしてレアは、来栖隼斗を殺す事を誓うと私にそう言いきった。


……一応、利害が一致しているから行動を共にしている…。


だが……。


『私はコインが好きだ、表か裏か……それでゲ―ムの先行後攻が決まる。

 ゲ―ムによってはそれで勝敗が決まるものもある……実にわかりやすい……』

 

 私はコインを地面に投げる。裏だった。

 

「裏ですね。この場合、わたし達とお兄ちゃん達……どちらの勝ちですかっ?」


お兄ちゃんというのは来栖隼斗の事だ。レアは彼をそう呼ぶ。


『どちらにしろ、私が勝つのは必然だよ……。ところでレア』

「なんでしょうっ?」

『お前の本当の目的はなんだ?』

「えっ? ですから、お兄ちゃんを殺すのが目的ですよっ?」

『何故、来栖隼斗の仲間だったお前が突然奴を殺そうとする? どういう心境しんきょうの変化だ?』


するとレアはなるほど……と少し考えてから、


「……フォルト様。あなたこそ……本当にお兄ちゃんを殺すのが目的なのですか?」


そう話をすり替えられた。


『……どういう意味だ?』

「お兄ちゃんをただ殺すのなら、

 現実世界でぶそうドロ―ンでも飛ばしてしゃさつすればいいでしょうっ?」


『…………』

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