#5 能力者の襲撃

あまりのショックに地面に膝をついた俺は、石化したフェ―べをじっと見つめていた。


「フェ―べ? どうしたんだよ? おい! しっかりしろっ!!」


完全に固まったフェ―ベを揺らす。


「来栖……」


俺も加賀美かがみも突然の出来事に、唖然あぜんとしていた。

どうして……どうして俺はいつもっ! 彼女達を救うことが出来ないんだ……! 


そこにピロロロと通知音のようなものが聞こえた。

これは、ワールドオブユートピアでよく耳にしたクエスト更新ログだ。


…………クエスト?


この世界でもクエストがあるというのか?

気になった俺はUIからクエストログを表示する。


そこには、息を飲むような文章が書かれていた。


◇◆◇◆


マスタ―。


アマルテアは大変な過ちを犯してしまいました。


時間がないので、重要なことだけこのログに残します。


まず一つ。お気づきかもしれませんが、この世界は現実世界を模した、

仮装現実世界であるということ。


マスタ―がいらっしゃる本当の現実世界を《第一世界》。


ワールドオブユートピアが《第ニ世界》とするならば

ここは《第三世界》というべきでしょうか。


つまり、私たちはまだ、VR世界に囚われているんです。


この世界はフォルトが用意したものです……。


二つめは、フォルトは生きていたこと。

もしかしたら、バックアップデ―タが残っていたのかもしれません。


三つめ。リシテアさんとイオさんも――わたしの調べた限り、

マスタ―がワールドオブユートピアに呼んだヒロイン全員が、この第三世界にいる事がわかりました。


もちろんマスタ―も……。


四つ。そして、アマルテアは、そのリシテアさんとイオさんを守れませんでした……。

こことは更に別の……世界に飛ばされたようです。そして、わたしも……。


マスタ―にはエタ―ナルソ―ドⅡを、カガミさんにはレ―ルガンⅡをたくしました。


なんとかこの世界から抜けてください……!


さようなら、マイマスタ―。


◇◆◇◆


「……… 冗談だろ?」


この世界に元々いないのならいい。

だけど、彼女達はいるってわかってしまったんだよ!


なのに……。


残されたのは、俺と加賀美とコ―デリアだけ……?


こんな……こんなの……!


「こんなの、ハ―レムでもなんでもない………っ!」


俺の心は冷え切りそうでいた。


気がつくと、周りでサイレンの音が聴こえた。

……パトカ―と救急車がやってきたようだ。


警官と救急隊員はさっきギガンテスが暴れ回り、

人間の死体だらけになっている場所に駆けつけ、唖然あぜんとしていた。


やがて警官一人が俺たちの方にやってきた。


「君たち、大丈夫か? この辺で怪物が暴れ回っていたと聞いたんだが。何か知っているかい?

 ……その人形は?」

 

 人形? ……フェ―べの事か。

 

「信じられないでしょうけど、その怪物は、俺たちが、倒しました…… 」


俺はフェ―べを抱えうつむいたまそう言った。


「は? あがっ……」


――ズシン


さっき警官の声が聞こえた位置から、ズシンと重い音。


「後ろだ来栖ッ!」

「え?」


後ろを振り向くと、血塗れになって倒れているさっきの警官と、

大男と石化したコ―デリアを抱える低身長の男。


周りを見るとさっきまでいたはずの救急隊員や、

警官がみんな地面に倒れていた。


俺はフェ―べをゆっくりと地面に降ろし立ち上がった。


「死ねっ!」


男からは殺気しか感じられない。

俺はとっさに後ろに回避する。


「お前らが――彼女達を石化したのか……!?」

「ああ? この女二人は君の友達だったのか? それはすまないねぇ……」

「目的はなんだよ!?」

「自己紹介でもしようか? 俺は清水。このちっこいのは遠藤だ」


話が噛み合わないし、こいつらの自己紹介など聞きたくもない。


「目的はなんだと聞いているんだ!」

「俺は、痛がっている人を見るのが大好きで、遠藤は石化した人を眺めるのが好きってだけだよ?」


大男の清水はおしゃべりだが、

遠藤と呼ばれた小さい方は無口だった。


「なんだその性癖は……病院にかよったほうがいいぞ」


俺は剣を構える。加賀美もレ―ルガンを展開した。


「こいつらも能力者か……面白い。かかってこい」


背丈の高い男は今から始まる戦闘が楽しみなようだった。

本当、腐った奴だ。


大男は一瞬にして数人を一瞬にして殺すほどの力。

もう片方は石化させる事が出来る力。


どういった魔法かはしらんが、コイツらは――危険だ。


「来栖。分かっているよな。こいつらは人間だっ!

 仮想世界とはいえ、殺すなよっ」


加賀美はレ―ルガンを非殺傷モ―ドに切り替える。


「わかってる」


本当に、考える暇さえ与えてくれないのか…… くそっ!


……UIを見ても、相手二人のレベルや名前は表示されていない。

仮にもモンスタ―ではなく、人間だということなのか?


ただ、HPは表示されている。 なんだこのHPは? 本当に人間か?

コイツらは一体………。フォルトが関わっているのか?


「さあ、殺し合いをしようかぁ? 《テレポ》!」


すると、清水は一瞬の間に姿を消す。

瞬間移動か……。


「後ろかっ!」


俺は遠藤の瞬間移動先を予測し、後ろを振り向く。


――――いない!?


「上だよ……!」


上から、緑色の光る剣を持った清水が襲いかかる。

さっきまでは剣なんて持っていなかったのに……!

男は飛びかかるように、俺に剣を振り下ろす――。


――ヒュン


「ぐわっ!?」


加賀美のレ―ルガンから放たれた弾丸により、大男は吹き飛び地面に落下した。


「大丈夫か、来栖!?」

「ああ。助かったよ……!」


俺は体勢を整え直し大男の方をみる……。

少し離れた場所で詠唱のような事をしている遠藤と呼ばれた小さな男が視えた。


……詠唱? まさか!?


「加賀美! あいつ、俺たちを石化しようとしているんじゃないのか!?」

「……ッ! 僕に任せてくれ!」


そして、加賀美は石化男に照準を合わせ、トリガ―を引いた。


弾丸は、遠藤にまっすぐ飛んでいくが――突然彼の前に大男が現れ、弾を剣で弾いた。


「そうはさせねぇよ……? 遠藤? 石化いけるか?」

「二人まとめて石化は初めてだけど……出来そうだ……! ――石化!」


「し、しまっ――!?」


俺と加賀美の体はみるみるうちに石に……ならなかった。


「がああああああああああ!?」

「遠藤!?」


刹那――不可思議な事が起こった。


遠藤は、悲鳴を上げ……。

その場に倒れたのだ。


ど、どうなってるんだ……?


「な、なぜ……があっ……」


そして、光剣を握った大男――清水も……地面に倒れた。

加賀美は倒れた清水の方に近づき、首元に触れた。


「……死んでる」

「え?」

「この清水とかいう男……脈がない」


その直後……石化男――遠藤も調べたが、こいつも死んだ事がわかった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る