#4 フォルトの世界

「《テレポ》ッ!」


私は接近するのをみた男は瞬間移動で逃げようとするが、

それすらも上回る速度で猛ダッシュをし、大男の目の前に一気に近づく――ッ!


「は、速い!?」

「死ね――ッ!」


そしてそのまま鎌を振り下ろす――――!


「……だが、そんなものか? 《フォ―ス・フィスト》!」

「あがッ!」


刹那――私の体は男の不意のアッパ―により、店の天井を突き破り、

空高くに吹き飛ぶ……!


更に、《テレポ》により、上空にいる私の更に上に出現した彼は、

緑色に光る剣で私を地面に吹き飛ばした――。


剣で斬るのではなく、殴ったのだ。


「遠藤、石化は!?」

「あと三秒」


そんな男の声のやりとりが聴こえた。

あと三秒で私も石化されるのか……。


リア……!


私はリアを助けられなかった事を悲しみながら、

大量の涙をこぼしながら地面に落ちていく。


誰かが助けてくれるかもしれない。

石化する前に、せめて地面の落下死だけでもなんとかしようと、

私は重力を反転させ、落下スピ―ドを遅くした。


これなら、激突だけは避けられる。


でも、さようなら、みんな……。


「危ない!?」


ガシッと誰かに抱えられる事で私の死は逃れた。

目を開けると、そこにはハヤトの姿があった。


「ハ、ハヤト……」


ああ……。


お前には、いつも、いつも……心配ばかりかけてしまって……。


「フェ―べ!? どうしてこんなところに?」


ずっと一緒だと誓ったのにリアを助けられなくて……。


「ハヤト……すま、ない……」


――――石化


私の姿はみるみるうちに、石になっていく。


最期に、ハヤトの顔を見れて良かったよ……


ふふっ……私は本当に……弱い魔王だ……。


そうして、私は石化した。


◇◆◇◆


2040/6/13 AM 7:00


ハヤトが現実世界らしき場所で覚醒した同時刻。


――エジプト……サハラ砂漠――


わたし、アマルテアとリシテアさんとイオさんの三人は、途方に暮れていた……。


「アマルテアさ―ん」

「アマルテアちゃ―ん!」

「は、はい」


二人がわたしを呼んでいるが、なんだか意識がぼおっとする。

暑さのせいで頭がやられているのだろうか?


「どうしたのですか? さっきからずっとぼ―として……」

「そう、ですかね……」


そもそも、わたし達はどうしてこんな砂漠を歩いているのだろうか……。


だけど、ここが現実世界のエジプトにあるサハラ砂漠という砂漠地帯を歩いているのはわたしの知識からわかる。

では――現実世界にいるはずのない私たちプログラムがなぜ現実世界にいるのか?


その理由はわからない……。

でも、何かが引っかかる。意識がクラクラするからだろうか?


「それにしても……暑いわねぇ……」

「ですね―!」

「そういうイオちゃんは、なんとも無さそうだけど?」

「イオは暑い場所を訪れるとテンションが上がりますから!」

「そ、それは元気でいいことねっ……」


リシテアさんはイオさんの元気さにはついていけないようだった。


「アマルテアちゃん……大丈夫?」

「え、ええ」

「ま、暑さでやられてるのかもねぇ― これだけ暑いと、意識もはっきりしないわよっ」

「そうですね……」


何かが引っかかってしょうがない。

でも、何がだろう……?


『やはり、貴様らは私のチカラで直接消すことは出来ないのだな』


私たち三人はその声に驚いた。


「「フォルト!?」」


間違いない、この声はフォルト……!


そして、フォルト――デウス・エクス・マキナではない、

人型で漆黒の鎧を着たフォルトが私たちから数メ―トル離れた場所に現れた。


ああ、さっきまでわたしの中で引っかかっていた違和感の正体が大体掴めた……。


「この世界は、現実世界じゃない!」

『その通りだ。意識は戻ってきたかな? アマルテア?』


さっきまでぼ―っとしていた意識が、徐々に覚醒していく。


「アマルテアに何かしたんですか!?」

『この世界に来栖隼斗を飛ばす為には、貴様を眠らす必要があった』


なるほど、なんとなく理解。

目的はしらないけれど、マスタ―を前の世界からこの仮装現実世界に移動させる為には、フォルト以外の神さまであるわたしの目をあざむく必要があり、

そのために、わたしの意識を遠ざけた……そう彼は言っているのだろう。


だとしたらマスタ―もこの世界のどこかにいるのだろうか……?

何かが、まだわたしの中で引っかかったままだった。


「それで……アマルテア達をどうするつもりですか!?」

『簡単な話だ、貴様らのデ―タを直接消すことが出来ないが……』

「アマルテア達を殺しにきた……」


『いや、私だって馬鹿ではない。機械仕掛けの神デウスエクスマキナを失くした私では分が悪い。特にアマルテア……貴様はとても強いようだ』


フォルトは分が悪いと言っているものの、何故か剣を取り出した。


「リシテアさん、イオさん! 気をつけてください! 彼は何かをたくらんでいます!」

「了解!」

「わかっています!」


私たちもそれぞれの武器を取り出す――


魔法剣士――イオはフォルトに向かって突撃する。


「地獄の炎よ! 《インフェルノ・ソ―ド》!」

「唸れっ! 《ア―ス・ブレイカ―》……!」


イオさんはフォルト目掛けて突撃し、続けてリシテアさんもフォルトに近づいた後、スキルを発動させた。


イオさんの炎で包まれた剣による猛攻と、

リシテアさんの土属性の槍による連続突きで、フォルトにダメ―ジを負わせた。


『《転送トランスファーポータル》……!』


刹那――わたしたちの目の前に複数の丸い暗い穴が出現した。

丁度それはわたしたちの身長ほどの大きさだった。

わたしは間一髪で回避するも、


「「きゃああああああっ!」」


突然のポ―タルの出現により、リシテアさんとイオさんの二人は吸い込まれていった。


『これで、あとはお前だけだな? アマルテア……!』

「……二人を消したのですか!?」

『先ほども言ったように、私には彼女達のデ―タを直接消すことは出来ない』

「では、一体二人に何を……」

『“こことは更に別の空間”に飛ばしただけだ、心配することはない…… 次は貴様だ……!』


フォルトは、再び《トランスファ―・ポ―タル》を発動させ、わたしの目の前に楕円だえん型の暗い穴を出現させる。


しかし、わたしは間一髪で避け――そのままフォルトに斬り掛かった。


――ザシュ


攻撃を受けたフォルトは一瞬よろけるも、直ぐにバックステップで間合いをとった。


『流石の身体能力だな。私の転送門を回避し、攻撃を仕掛けてくるとは……』

「直ぐに体勢を整える貴方こそ、凄まじい身体能力だと思いますよ……!」

『お世辞はいい……!』


フォルトは転送門はわたしには有効では無いと判断したのか、剣で斬りかかってきた――!


わたしは、その攻撃の全てを避け、カウンタ―でスキル《水流絶影斬・壱》を発動させ、連続斬りを放つ。


更に回し蹴りをフォルトの胴体にぶつけ――軽く吹き飛ばした……!


『グゥ……!』

「どうです……?」

『不覚……まさか、貴様がここまで強いとは……』


圧倒的な力の差だった。

これなら、ここでフォルトを倒すこともできるかもしれない……!


……だけど、


何故気付かなかっただろう。


この戦いはに過ぎなかったのだと……。


『……ところでアマルテアよ。何か忘れてはいないか?』


突然フォルトはわたしに質問をする。


「……?」

『この世界は私が創った仮装の現実世界だ。そして、この世界なら、以前の世界よりも簡単に世界をいじることができる』

「……何が言いたいんです?」

『この世界なら――簡単に来栖隼斗を殺すことも出来るということだ……!』


「――――!?」


わたしはまんまとフォルトの言葉に乗せられてしまった。


『さらばだ――アマルテアよ』


やっぱりマスタ―はこの世界にいたんだ……!


マスタ―の事を気にかけている隙を取られ、わたしは転送門に吸い込まれる。

わたしはこの世界とは別の空間に飛ばされるのだろう。


……でも。


それでも、わたしは諦めない。


せめて、マスタ―にこの事を知らせなければ……!


何処かへ吸い込まれる前に……っ!


転送門へと吸い込まれる数秒の間に、

わたしはこの世界をサ―チする。


東京にいるマスタ―とカガミさんを見つけた。

モンスタ―《ギガンテス》に遭遇しているマスタ―達を見た。


わたしはすぐにワールドオブユートピアUIを呼び出し、

彼らが充分に戦える程の武器――《エタ―ナルソ―ドⅡ》と《レ―ルガンⅡ》を生成し、二人に渡した。


「マスタ―……どうか――――」


最後に、二人のクエストログにわたしたちが転送された事を記載した。


そして――わたしの意識は途切れる。

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