#3 アンバランサー

「いらっしゃいませ―!」


建物に入った瞬間、カウンタ―の奥から店員らしき人物が、

にこやかスマイルで元気よく挨拶をしてきた。


なんだあの笑顔……き、きもちわるい……。


……いらっしゃいませ? ここはお店の一種だろうか?

どうやら、罠ではなかったようだが……?


それにしても……。


私は店の中を歩きながら辺りを見渡す――。

使い道のわからない雑貨らしきものや、どうやって摂取するのか分からない食べ物のような物まで、沢山置いていた。


変わった店だな……。


「フ―ちゃん! ここはなんですの―! 凄いですわ―!?」


リアは大声で叫ぶ。

店員と他の客達が、リアを睨んでいた。


私はリアの前まで近づき、


「リア、大声で叫ぶなっ迷惑だろっ」

「……ごめんなさいですわ」


そう軽く注意すると、リアも謝っていたのでヨシとする。


「静かに店内を物色しよう」

「ですわ」


――十分後。


「な、なんだこれは!?」


リアに黙れといった私が商品を見て大声を上げていた。


「フ―ちゃん? お店の人達やお客様に迷惑ですわよ? 静かにしないといけませんわ?」

「あ、ああ。すまない……だ、だがしかし!」


この商品はすごく気になるぞ……!


この世界の文字は全く読めない。

だからこの商品名もよくわからない。


だが――これがかっこいいマントだという事はわかる……!


「これを買おう!」


マント……! これが無くては魔王は語れまいっ……!


そして、私達はカウンタ―の上に黒と赤のマントを持って置いた。


「980円になりま―す!」


きゅうひゃくはちじゅうえん……?

よくわからんが、金の事だろう。

私はポケットから、金貨を十枚取り出す。


「これで足りるか?」


私は金貨をカウンタ―の上にバンっと叩きつけるように置いた。

よしっ! これで私もマントを……!


「……お客様、それでは買えません」

「えっ……」


――それではかえません


その言葉のショックに私は半泣きになっていた。


「これ、買えないのか……?」

「その通貨では買えませんね」

「うぇ……」


そして、私は子供のように大声上げてなきじゃくってしまう。


「フ―ちゃん……」


流石のリアでも私が号泣しているところを見たことが無いのか、反応に困っていた。


「すみませ―ん。この子のマント買いま―す! 980円ですよね?」

「ぇ……」


そういって、カウンタ―にいる私の隣に現れたのは私より背の高い女性だった。

そして、会計を済ました女性は笑顔で、


「はいっ! これどうぞっ!」


そう言いながらマントを私に手渡した。


「い、いいのか……?」

「全然いいのっ! 安かったしっ! それよりも私、ちっちゃい子供が泣いてるのを見るとついつい優しくしちゃうのよね―!」


「あ、ありがとう……」


ちっちゃい子供というのに少しひっかかったが、勿論そんな事は言わない。


「うんっ! またねっ!」

「ああっ!」


そういって女性は店から出て行った。


「フ―ちゃん! 良かったですわね!」


そういながらリア私の肩をポンと叩く。

そして私は袋からマントを取り出そうと……


「お客様、着替えるなら店から出て行ってから着替えてください」

「すまない……」


そして私は店から出る。

リアはもう少し商品を眺めていたいようなので(金はないので買えないが)

私だけ先に店を出た。


「ありがとうございました―!」


――バサッ


私はマントを装着する。

まさか、こんなよくわからない場所で魔王のマントを入手するとは……。


「ふはははっ! これが魔王の力だ……!」

「あのっ! それ何のコスプレですか? かわいい―!」


突然話しかけてきたのは一人の少女。

手元には、謎の装置を持っている。


「こすぷれ? なんの事だ?」

「それもキャラの設定のセリフですか? 写真撮ってもいいですかっ??」

「きゃら? しゃしん??」

「凄いですねっ! 声を掛けられてもキャラを維持するなんてっ! コスプレイヤ―の鏡ですっ!」

「????」


さっきからこの少女は何を言っているのだ……?


「あの、写真とってもっ?」


何だか知らんが、とりあえず承諾しょうだくしておくか。

面倒くさいし……。


「ああ。いいぞ」

「本当ですか! じゃあ取りますねっ!」


――パシャ、パシャ。


少女が持っていた謎の装置から音が聴こえる。

本当に、なんなのだ……。


そこへ、さっきの店に見るからに不審な男二人が入っていくのが見えた。


「いい写真が撮れましたっ! ありがとうございます!」

「……いえ」


そういって謎の機械を手に持った少女がその場から離れる……その数秒後、


――ガッシャ―ン!


店の中から激しい音が聴こえた。


「な、なんの音だ!?」


リア……!


嫌な予感がした私は、慌てて店の中に戻った。


――あらゆる商品が地面に落ちており、店内は荒れていた。

脅威から逃げたのか、店員や先程いた客は見当たらなかった。


代わりにいたのは、店内の奥で石化して動かなくなったリアと、先程店に入って行った不審な男二人。


「リアッ!!」


小さいのと大きい男。

見た感じ、どちらも年齢は若かった。


「お友達かな? すまないねぇ。この女が僕たちに歯向かってきたからさぁ……」


そう言ったのは大きい男の方だ。


「《デスサイズ》ッ!」


私の手元に巨大な鎌が出現し、それを握った。


「ほう? 鎌を出現させる“能力”……君もアンバランサ―かな?」

「あんばらんさ―?」

「知らないのか? 僕たちみたいな能力者の事をアンバランサ―と呼ぶんだ」


さっきからずっと大きい方が喋っており、小さい方は無口だった。


「知らん! それより――リアに何をしたっ!?」

「さっきも言っただろう? この店の食べ物を盗もうとしたら、この女が歯向かってきたからこのちっこい奴……遠藤のチカラで石化しただけだ」


そう言いながら男は遠藤と呼ばれた無口の男の肩を叩く。


「早く元に戻せッ!」


私は鎌を握る手を更に強くする。


「残念だが、戻し方は分からないんだよねぇ……」

「だったら――待っているのは……」


私は怒りに震え、大きい方の男に突撃した。


「貴様らの死だ!」


リアを石化する奴など――――殺しても構わないッ!


――カキン!


私の鎌は男が手元から呼び出した“緑色に輝く剣”でぶつけ、鍔迫り合いになる。

驚いたのは、私の力を剣で普通に受け止めたことだ。


「お前の剣は緑色に光るんだな……? どんな魔法だ?」


私は男の剣の感想を素直に漏らした。


「“魔法”? ただの玩具の剣だよ。 ただし、威力を何十倍にも増幅させてるがなッ!!」


そして、大男は私の鎌を押し返し、間髪入れずに追撃を行う。


「ハッ!」


それをサイドステップで避けた後、魔法発動。

鎌を持っていない方の手から紫色の大きい弾を撃ち出す。


「《テレポ》!」


そう言った男は、斜め後方に瞬間移動をし、弾を避けた。

私は手の向きを変え、男の瞬間移動先に弾丸を放ち続ける。

だが――男は《テレポ》を連続で使用し、何度も弾丸を避ける。


「瞬間移動……面白い魔法だ。だが……」


私は、瞬間移動を行うまでに数秒間だけタイムラグがあるのを見逃さなかった。

だったら……避けられる前に近づいたらいいだけの話だ―――ッ!

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