蝉男

第1話

男は歩道の真ん中で自分が巨大な蝉に変わっていることに気がついた。


何がどうしてこうなってしまったのか皆目見当もつかない。ただ人気のない場所で良かったと安堵するばかりである。


起き上がってみようと思ったがうまくいかない。仰向けのまま左右にじたばたと動くこと小一時間は格闘しているが一向に起き上がれない。


長い間動き続けていたが故にコンクリートの硬さを嫌でも背中に感じる。ただ体力を消耗するばかりだ。


自宅に帰りたいがこの姿で帰れるはずもないし、もし仮に帰れたとしても自分の身体の幅ではあのアパートの階段を上れるはずもない。


わざわざ人気の多い場所に行って「蝉怪人だ!」と騒がれるのが関の山だろう。


自分は人一人ほどの大きさはあるが所詮はただの蝉なのだ運が悪くなくとも殺されるかもしれない。 


ふと男の頭にある考えがよぎった。


蝉の寿命は一週間というものをどこかで聞いたことがあるが自分も一週間後には死んでいるのだろうか。


男は瞬間焦燥感に駆られたがそもそも一週間以内に殺されない保証などないのだ。


そう考えると男はなんとも芒洋とした気分になるのであった。

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蝉男 @murasaki_umagoyashi

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