第12話 騎士団会議

 すなわち、魔法使いワンダの獲得を諦める。

 全員の反応は、一瞬では、返ってはこなかった。


「反対意見のある者は?」


「な、ななな――姫様!?」

 

 意外にも、反対の意を示したのは後光だ。

 彼女の場合、不満があっても言わずにがまんしているものだけど、

 こうして口に出すとは、珍しい。

 

 それだけ嫌なの……?

 ついさっきボロ負けした相手だから、仕方ないとは思うけど。


「そ、そんな子供みたいな理由じゃないですよ!」

 ああ、そう。

 そんなことは一ミリたりとも、思ってはいなかったけども。


 周りを見渡す。

 後光の他に、反対意見のある者はいなかった。


 現状では。


 恐らく、自分の中でも、意見が真っ二つになっているのだと思う。

 獲得するメリット、デメリット、どちらも同時に存在しているのだから。


「いいんじゃない? あたしは賛成。

 あの強さが手に入るなら、この国の戦力も強化されるでしょうし」


 ねー、おじさん、と、

 ギャル子が隣にいた大男に話しかけ、彼が無言でこくんと首を縦に振る。


 決して、おじさんという年齢ではないけど、

 ギャル子の失礼な態度だからこそできる呼び方だった。


 体の大きい彼は、腕を組んでどっしりと座り、考え込んでいるけど、

 基本的にイエスマンだからなあ……、

 たぶん、ギャル子が反対を示したら、彼もそれに頷いていたはず。


 いちばん最初の意見に決めて、そこからは動かない。

 大木のように。

 たとえ私と口論になっても、意見を変えないのは徹底している。

 肝が据わってるなあ。


 大木だけど、ウドにだけはならないでほしいと思うが。


「こらっ、会議中でしょ、話を聞きなさい」


 小さな少年へ、後光が注意をする。

 手に持つ携帯ゲーム機を取り上げた。


 彼は露骨に、ちっ、と舌打ちし、不機嫌を隠さない。

 いや、特に、見せつけている感じだった。


「俺は賛成で」

 つまらなそうに一言。

「ほら、答えたろ、返せよ爆乳」


「なっ!?」


 動揺した隙にゲーム機を奪われ、後光はてんやわんやだった。

 言われた事が気になるのか、ちょくちょく自分のそれを見る。

 ちらと見て赤面して……、なんかエロいからやめてくれるかな。


 というか、まとめてくれるかな、この騎士団を。

 メンバーが一筋縄ではいかないのは分かってるから。


「えー、おほん。……改めて、私は反対です、姫様」

 ほお、いいねえ。

「あ、あの……その不敵な笑みは、一体なにを企んでいるのですか……?」


「なーんにも。いいから続けて。後光以外に反対意見の者はいるのかしら?」


 メンバーをぐるりと見渡す。

 この一言で、反対意見だった者も、賛成に変えたような雰囲気がした。

 狂男とか、まさにそれ。


 私の裏の思考に辿り着いたか。

 いや、酷い事をしようなんて思ってないわよ? 


 ちょっと、弄ぶだけ。


「それが怖いんだと思うぜ」


「あら、あんたもそうなの? 

 ところでなんで喋ってるの? 黙れっつったわよね?」


「言われてはねえけど……、

 たぶんお前の心の中で言ったんだろ。

 妄想と現実をごっちゃにするなよな、もー」


 むかっ、と、ムカついたので、モヒカンの顔を足裏で蹴り飛ばす。

 椅子ごと後ろに倒れたモヒカンは、しかし、続けた。


「丸見えだぜお姫さん」

「後光、こいつ殺すから手伝いなさい」


 はい! と喰い気味で頷いた後光も、同じ気持ちだったらしい。


 いやいやおいおい、と、余裕がありそうなモヒカンだ。

 ふーん、さすがに本気ではやらないだろうなあ、

 なんて、思っているのかもしれないけど、甘い。


 やる時はやるよ、

 私の性格を知っているなら分かるでしょ。


 あんたにだけは、いつも容赦がないのをあんたは知っているはず。

 いちばん、よく知っているはず。


「なぜなら被害者は俺だからな!」


天誅てんちゅう!」


 そんな掛け声と共に、

 オーバーキルをしようとしたところで、モヒカンが叫ぶ。


「俺は反対だ姫さん!」


「オーバーキルじゃ足りないわけね……」

「メンバーとしての意見だから! ちゃんと取り合え!」


 まあ、部屋で激しい戦闘もできないので、

 仕方なく椅子にかけ直し、モヒカンの意見を聞く事にする。


 あいつも座り、しかし後光は、

 モヒカンの後ろに立ち、刀を人間の死角に押し付けている。


 刃ではないが、すぐに斬れるという意味では大差ない。


「続けて」

「お前も反対意見のはずだよな、団長……?」


 他のメンバーも全員賛成……、

 早く終わらせたいから、という意味が強そうだが、まあ賛成に変わりはない。


 反対意見同士で敵対している賛成反対の構図は不思議な感じだ。

 確かに、二人は手を組むって間柄ではないけど。


「リグヘット、だっけか。

 あいつは強いし、騎士団の戦力強化に繋がる。イコールで、国の強化にもなるわけだが……、だが、もしもあいつが俺らに敵対意識を持ったら、どうする? 

 今のところ、俺達が始末しようとしても、奴は俺らを敵として見ていないかのように、手加減してくれているけどよお――もしも、これが本気の殲滅に動いたら、騎士団だけじゃねえ……、

 国が、簡単に滅ぶ事になる」


「…………」


 私と後光は、思わず黙り込んでしまう。

 こいつ……、たまにこういう芯を打ったような事を言ってくるから困る。

 獲得した時のメリットにばかり目がいって、デメリットを深く考えていなかった。


 いや、考えてはいた。

 頭の片隅にはあった。

 しかし、目がいかなかっただけで……。


 それは結局、見えていなかったわけ、ね。

 モヒカンのくせに、それに気づくなんて、なんだかぶん殴りたい気分だわ。


「な。大将もそう思うだろ?」


 どっしりと構えた大男が頷く――いや、嘘つけ!



「で、結局、勧誘するのな……」


 今日の騎士団は解散。

 モヒカンの意見には舌を巻いたけど、

 とは言え、賛成意見が多数を占めているので、

 ここはリグヘットを勧誘する事で決定した。


 最終的に、後光も数に押されて賛成に変えていたし……、

 押しに弱いからなあ。


 押し倒したら、そのままキスくらいならさせてくれそうな予感。


「俺が提唱したデメリット、どうするつもりなんだ?」


「なんとかなるでしょ。

 それに、リグヘットが入ってくれるとも限らないし」


「どうせ意地でも獲得するくせに。

 欲しいものは全て手に入れてきたお姫様だろ」


「全ては手に入れてないわよ……平和とか」


「欲しいのか、それ」


 ノーコメントで。

 ともかく、リグヘットのいる宿へ向かっている途中。


 なぜか、モヒカンまで着いてきている。

 別にいらないのに。

 というか邪魔だ、帰れ。


「酷いな姫さん。ま、暇だからついてきただけだが」


「仕事をしなさいよ」

「いや、団長が効率的に全部やっちまうんだ、だから仕事がねえ」


 あの子……、まあ、基本的に優秀だからなあ。

 ただ、まとめる事はできても、育てる事はできないらしい。


 全部一人で、なんでもかんでも完成させてしまう。

 修行という名目で自分に厳しいし……、

 うーん、あっちが立てばこっちが立たず、みたいな、もやもやだ。


「知ってる? 仕事は任されるものじゃなくて、自分で探すのよ」


「ゴミ箱を倒して掃除するみたいな感じか?」

 自業自得の後始末を仕事とは言わない。


 とりあえず、今日はもう上がっていいわよ。

 私とリグヘットの邪魔をしなければ、どこでなにをしてても文句はないし。

 悪い事でなければ!


「うーす、お疲れさんス、姫さん。

 そっちも頑張れよ、リグゲットしろよー」


 じゃなー、と私の反応を見ずに、ナチュラルに去ったところを見ると、

 笑わせようとして言ったわけではないようだった。


 真面目に言ったらしい。


 リグゲット、ねえ。


 でも、なんだか使いたい不思議な魔力がある気がする。

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