第7話 リグヘットの人間関係

 結果的に言えば、確かにはずさなかった。


 当たりもしたけど、

 だけど不意打ちなのにもかかわらず、あいつは、ぱしんっ、と、弾丸を受け止めた。


「うそおん!?」

「…………」


「ちょお、おい!? はずしてないじゃん! 当たったじゃん! 

 だから俺のトレードマークを毟り取らないでお願いだから!!」


「……はあ、いいわよ、今回は……」


 伸ばした手を引っ込める。

 私も内心、動揺した。


 だって神器だよ? 

 その一撃を、あんな軽い感じで受け止められたら、開いた口が塞がらないよ。


 キャッチボールじゃないんだから。


「……姫さん? どこにいくんだよ、おいっ」


「ちょっと宣戦布告」


 止めるモヒカンを無視し、柱から体を出す。

 セール品を見定めている、あいつの元へ近づいていく。

 そして、商品台を挟んで、向き合った。


「お、また会ったな」

「会いにきてやったのよ、感謝しなさいよね」


 ちょうど良いところにきたな、とあいつが私を手招く。

 台があるのでこれ以上は進めないため、回り込む必要があるのだけど、

 あいつは別にこっちにこなくてもいい、と私を遮る。

 拒絶されたみたいで、なんだか腑に落ちない……。


「そこでいいよ。……意見が聞きたくて。

 こっちとこっち、どっちが美味そうだと思う?」


 見せられたのは、今日、入荷したばかりの魚だった。

 見た目はあまり変わりがなく、目線が上か下かの違いくらいしかないんだけど……、

 というか、私にそんな知識はない。


「気に入った方でいいんじゃないの? 

 というか、セール品なんて、元からわけあり商品よ? 

 どっちにしたって、新鮮なものに比べたら味は数段階、落ちるわ」


「まあ、焼いちゃえばなんでも美味いからなあ」


「……焚火で?」

「よく分かったな。木の棒を刺して、くるくる回しながらだな」


 イメージ通りだった。

 うん、やっぱりあんたはそうでなくちゃね。


「――あれ? あんたは自然の食材を自分で獲ってきそうな自給自足がお似合いって感じがするんだけど、じゃあなんで、思いつきそうにもないこんなセール品なんて買い漁ってるわけ?」


 ここでしか買えないものがあるわけじゃないし、結局、自然から獲っているわけで、こいつならタダで手に入れることができるのに。

 しかももっと新鮮で、味が凝縮された魚を。


「これは俺のじゃねえよ。

 頼まれたんだ……えっと……」


「リグ、はじめてのおつかいはできた?」


 と、声をかけてきたのは見覚えがあり過ぎる少女だった。


 手にかけたカゴには、既にたくさんの食材が。

 野菜や肉、これに魚も加えるとして……、

 何を作るのか想像できない。

 なにを作るかというか、なんでも作れる。


 自然と周りを見てしまうけど、ワンダの姿はどこにもなかった。


「……浮気?」


「違うよぉ。

 そういうこと、ワンちゃんの前で言わないでよね」


 あいつは気にしなさそうな感じがするけど。


 ランコからワンダへの好きの度合いを考えたら、

 彼女は絶対に、浮気なんて死んでもしなさそうだ。


 するとしたら、だからワンダの方だろう。

 今いないのも、浮気をしているからなのかもしれない。


「そんなはずないって。

 ワンちゃんは今頃、家でごろごろしているだろうし」


「それはそれでどうなのよ。

 昼間っからなにもしないで」


「一応、魔法書を読んでるよ。

 暇だーって、言いながら」


 じゃあ働けよ、と思うのだけど……、

 そろそろびしっと言った方がいいわよ。


 苦労するのはランコなんだから。


「ワンちゃんのために苦労するなら苦じゃないよ」


「……もう、なにも言わないわよ」


 お世話が趣味みたいになっている人に、正論は伝わらない。


 ワンダのために、と熱弁したら、心動きそうなものだけど、

 あんなクズのために私が熱弁するのもなんだかなあ。

 そこまでするほどの男でもない。


 魔法使いとしては、実力は認めるけど。


「で、どんな関係なの?」


 リグヘットとランコを見比べる。

 接点がなさそうな気がするけど。


「道案内してくれたんだ」

「だから手伝わせてるの」


 らしい。

 色々と納得がいった。


 ランコと知り合いだったから、セール品を易々と手に入れる事ができたのか。

 ランコは一応、このあたり一帯を仕切る主婦カースト上位メンバーの一人だし。

 連れなのだと言っておけば、リグヘットも問題なく買い物ができるわけだ。


「目的の魚さ、あったんだけど、どれが良いか分かんないんだ」


「んー、どれもあんまりよくないね。

 まあ、無理して今日、買わなくてもいいかな」


 それもそうだな、だね、と、

 主婦というか、夫婦みたいな会話になってる。

 ……なんか、私を置いて勝手に会話を始めないでくれるかなあ……?


 イラッとしたので、

「それで!」と大きめの声で二人の会話を遮る。


「いつから知ってたの?」

 リグヘットに聞くと、ん? と首を傾げられた。


「弾丸! 受け止めたじゃない!」


 ああ、あれか、と納得したのか、手をぽんっと打つ。


「いや、飛んできた瞬間に気づいたんだよ。

 で、受け止めたんだけど……」


 咄嗟に、嘘つけ! と言いそうになったけど、

 今までの身体能力を考えたら、こいつなら普通にできる。

 指二本で弾丸を挟み込む事も、できそうな気がするよ……。


「さすがにそれは、たまにしかできないよ」


 でも、できるんじゃんっ。


 やばい……、

 こいつを負かす映像が浮かばない。

 情けなくも、一応、騎士団最強が失敗したとなると、

 つまり他の八名でも討ち取る事は不可能なわけで……。


 いや、まだ可能性はある。

 真っ向勝負で勝てなければ、変化球を混ぜればいい。


 モヒカンでは無理でも、あの男なら……。


 ――びしぃ! と、あいつに指を突きつける。


 宣戦布告。

 ランコがきて有耶無耶うやむやになりそうだったけど、目的は見失わない。


「うちの騎士団が、必ずあんたを倒すわ」


 忘れないで。

 あんたは今でも、反逆者のままなんだから。

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