中編:お姉さんたちとの戦い
人々が暮らす場所から遥か遠く離れた場所にある、『世界の果て』とも呼ばれる無限の荒野。そこで、2人に分身した少年と、2人のビキニアーマーを着込んだ美女の熾烈な戦いが繰り広げられていた。
「はぁぁぁっ!」
「ぐっ……はぁっ!!」
分身した少年・キョウタのうち一方が剣の勝負を挑んだのは、魔王を倒したと言う女勇者ライティアだった。彼はこれまで幾多もの魔物を一刀両断してきた剣の腕を存分に活かし、彼女との戦いを互角に進めていたのである。神から授かったチート級の能力を活かした彼の剣は文字通り音よりも速く動き、女勇者を攻め続けた。更に研ぎ澄まされた感覚を駆使し、ライティアの中に生まれるごく僅かな隙を一瞬で見抜き、勝負を決める一打を加えようとしたのである。それでも相手はあの魔王を倒したほどの実力を持つ女勇者。凄まじい速さで繰り出されるキョウタの剣捌きを時にかわし、時に防御しながら、自身の肉体を守り続けていた。
「なかなかやるわね……っ!」
「ええ……これが僕の……実力です!」
壮絶な戦いの中、歴戦の勇者たるライティアからそのような言葉が聞けた事は、キョウタにとって嬉しかった。勿論、気を抜いて戦える相手ではない事は、その剣捌きから嫌という程認識していた。そして、少しでも気を抜けば純白のビキニアーマーから覗く胸や腹、太ももに目がいってしまい、あっという間に隙が生まれる。そんな相手を前に互角以上の立ち回りが出来る事を、キョウタは喜んでいたのだ。勇者を超えることが出来るかもしれない、という皮算用と共に。
一方、もう1人の美女――魔法を駆使する漆黒のビキニアーマーの女性・ヤミーラとの戦いでも、キョウタは互角の戦いを続けていた。
「
「ぐっ……はぁっ!!」
「こっちも……
容赦はしない、と述べたヤミーラは、彼女自身が得意と断言する『闇』の魔法を次々に繰り出し、キョウタへ攻撃を続けた。何もない場所から紫色に輝く魔方陣を召喚し、そこから生み出した『闇』の形を自由自在に変える事で、彼の体に一打を浴びせようと猛攻を続けたのである。だが、神から与えられたチートな力を持つキョウタも負けてはいなかった。生まれ育った村を襲う悪人たちを蹴散らした魔法の力を駆使し、彼女の攻撃を防御したり逆に跳ね返したりしながら、じわじわと彼女を追い詰めようとしていたのである。風の力や大地の力、炎、水など自然をつかさどる様々な要素を自身の思い通りに使える魔法の力を、ここで一気に発揮し続けていたんだ。
「……ほう、やるな」
「そちらこそ、なかなか強いですね……」
漆黒のビキニアーマーから存分に覗く抜群のスタイルを見せつけるように立つヤミーラへ、キョウタは不敵な笑みを返した。ついその肉体に夢中になってしまいそうな美貌と、キョウタのチートな力ですら操るのが難しい闇の魔法を巧みに駆使する実力を併せ持つこの美女に肉薄できるだけの力を持つ事への嬉しさもこめられていた。
やがて、両者の戦いは――。
「「はぁぁぁぁっ!」」
「「ぐっ……っ!!」」
――あと一撃を加えれば自分が勝てる、とキョウタが感じる展開になろうとしていた。目の前の美女たちは防戦一方のように見える。やはり神からチート能力を貰って転生した僕の力は最強なんだ――そう確信を抱き、全力を込めたとどめの一撃をくらわそうとした、まさにその時だった。
確かに彼の剣も魔法も、ライティアやヤミーラの体に痛恨の打撃を浴びせたはずだった。ところが、驚愕の顔を見せたのは、全力をこの技に込めたキョウタの方だった。彼の視界に移っていたのは、先程と何ら変わらない真剣な表情と、ビキニアーマーのみを纏う体に闘志を宿したライティアやヤミーラの姿だった。彼女たちはキョウタの全力の攻撃を呆気なく受け止め、弾き飛ばしたのである。
「「えっ……!?」」
「さぁ、勝負はまだ終わっていないわ!」
「次はこちらから行くぞ!」
形勢は、あっという間に逆転した。
文字通り光の速さで繰り出すライティアの剣捌きを前に、今度はキョウタの方が防戦一方になっていた。何とかその攻撃を止める事は出来たのだが、それ以上の行動――ライティアの体に剣を振りかざし攻撃する事が出来なくなっていたのである。それだけ、女勇者ライティアの実力は凄まじかった。チート能力を駆使しているはずなのに、彼女に一打浴びせることすら困難になってしまったのだ。
「ふんっ、ほっ、はぁっ!!!」
「ぐっ……!!
それはヤミーラとの戦いでも同様だった。何とか魔法の言葉を唱え、風や炎の防御魔法の連携で分厚い魔法の壁を作り出し続け、迫りくる膨大な『闇』を跳ね返す事は出来ていたのだが、猛獣の群れの如く容赦なく繰り出される魔法を前に、それ以上の行動が取れなくなっていた。一瞬でも隙を見せてしまえば逆に吹き飛ばされ、荒野の大地に叩きつけられてしまう程だ。そして、逆にキョウタの方はヤミーラに対して攻撃できるチャンスを完全に見失っていた。詠唱もなしに次々と放たれる魔法を前にして、あっという間に追い詰められてしまったのである。
そして、勝敗は決した。
「「はああああっ!!」」
「「!?!?」
一瞬の隙を突いてライティアがキョウタの剣を弾き飛ばし彼を戦闘不能の状態に陥れたのと、もう1人の彼が作った魔法の壁に穴を開け、ヤミーラが彼の体を吹き飛ばしたのは、ほぼ同時だった。
大地に叩きつけられる寸前、ヤミーラと戦っていた方のキョウタの姿は消失し、彼女に敗北した記憶がライティアの前に屈したもう1人の彼の元へと統合された。その結果、2倍になった体の痛みや悔しさが、彼の心を駆け巡る事となった。神様から貰った力を駆使したのに、どうして勝てないのか。どうして途中から一気に形勢が逆転してしまったのか――涙すら滲み出そうになった彼に優しく手を差し伸べたのは、先程までとは打って変わって優しげな笑顔を見せる2人のビキニアーマーの美女たちだった。
「キョウタ君、本当に凄かったわ。私たち、こんなに本気を出して戦ったのは久しぶりだもの。ね、ヤミーラ?」
「私たち以外なら、な。お前は剣も魔法の腕も常人以上だ」
泣きそうになったキョウタへ励ましの言葉をかける2人は、同時に敢えて言葉を濁す事なく、彼が自分たちに負けた理由を告げた。間違いなく『経験不足』だ、と。
「経験不足……ですか……」
「仕方ないわよ、キョウタ君のような凄いレベルの人や魔物なんて滅多にいないもの」
「だが、そんな環境に浸かりきったお前は、自分の実力を過大に評価してしまった。私たちに勝てると過信していた。違うか?」
「は、はい……」
ライティアからの同情、ヤミーラからの厳しい言葉、どちらともキョウタからの異論は一切なかった。純白と漆黒、2種類のビキニアーマーから肉体美を見せる彼女たちの言葉は全て真実だったからである。はっきり言えば、彼は今まで弱い相手、短時間で決着がつく相手としか戦った事がなかった。それに、彼の力をもってすれ既に別の勇者が魔王と決着をつけていたという事を事前に把握出来ただろうに、その魔王を倒すという事しか考えていなかったキョウタはその発想すら思いつかなかった。例えどれだけチートな力を持っていたとしても、その使い方が未熟なままでは意味がない、と言うのを彼は改めて痛感したのだ。
片や魔王を倒した経験を持つ女勇者と彼女に匹敵する力を待つ女性、片やチートな力を持て余し続けていた自分。既に勝敗は戦う前から決まっていたのかもしれない、と落ち込む彼に、ライティアとヤミーラは笑顔を見せ、そっと手を差し伸べた。驚く彼に、2人はどこか楽しそうな笑顔を見せながら想いを伝えた。そんなに悔しいのなら、いっそ自分たちの『弟子』になって経験を積み、自分たちの能力を超えてみないか、と。
「えっ……ほ、本当にいいんですか……!?」
「私は全然構わん。むしろキョウタ、お前が私たちを超える日が来るのが楽しみになってきたぞ。超えられるものならな」
「私も同じ気分よ、ヤミーラ。ふふ、どう?私たちと一緒に暮らしてみない?」
この敗北の悔しさを胸にもっともっと強くなり、目の前にいる最強のお姉さんたちを打ち負かす――新たな目標が出来た彼は、迷わず2人に自分を弟子にしてもらうよう頼んだ。
勿論ライティアとヤミーラに異論は一切なかったのだが、優しく微笑む2人の姿を見たキョウタの全身はあっという間に真っ赤になっていた。当然だろう、心に余裕が生まれ始めたキョウタは、純白のビキニアーマーのみを着込んだライティアと漆黒のビキニアーマーだけを纏ったヤミーラという大胆かつ抜群なスタイルを持つ2人の美女の姿をその目に焼き付ける事になったのだから……。
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