転生チート少年と異世界お姉さんズ

腹筋崩壊参謀

前編:お姉さんたちとの出会い

「え、魔王が倒された!?」

「そうだよ。あんた知らなかったのかい?美人の勇者様がぶっ倒したって話だよ」

「そんなぁ……」


 折角倒そうと意気込んでいたようだけど残念だったね、と宿屋の店主が語る一方、事実を知った1人の少年はがっくりとした表情を見せた。遠く離れた田舎から王都に辿り着き、そこで仲間を見つけ、世界の平和を乱そうとする魔王を倒す旅に出るという構想が、あっけなく打ち砕かれてしまったからだ。

 世界が平和に近づいているのは良いじゃないか、と宿屋の店主が声をかけた通り、少年にとってもそれは大いに喜ぶべきことだった。それでも彼が落ち込んだ理由は、自分こそが魔王を倒せる存在だ、と信じていたからである。


 彼――『キョウタ』は、この世界とは別のとある世界で一度命を落とし、神から与えられた機会を使いこの世界で再度命を得た『転生者』であった。勿論、単に過去の世界の記憶をもって転生したばかりではなく、彼は神から様々な能力――それも『チート』と言うべき凄まじい反則級の力を手に入れていた。襲い掛かる魔物をあっという間に一網打尽にする剣捌きや悪党を好きなように翻弄させ退治することができる魔力など様々な力を得た上で、キョウタはこの世界に転生したのである。

 様々な魔法や剣術を使う彼は『神童』と呼ばれ、生まれ育った村で大いに持て囃された。時に村を襲う魔物や作物を盗もうとする悪党を退治し、多くの人々から称賛された。そして、村人に見送られる形で彼は魔王退治のため王都に赴いたのである。だが、キョウタを待ち受けていたのは、何とも言えない現実であった。


「あーあ……つまんないの……」


 宿を去った後、キョウタはあてもなく王都をぶらぶらと歩き続けた。当然だろう、どれだけ凄まじい力を持っていても、肝心の倒すべき相手の魔王がいなければ、チートな能力を持って転生した意味がない。前の世界で何度も読んだライトノベルや漫画、アニメの主人公のように格好よく無双する姿を神様に願ったはずなのに、これではただ力がある『だけ』じゃないか――だが、いくら心の中で愚痴を言っても状況が改善することはなく、結局飲食店で暇を潰すしか無かった。


 田舎に帰るか、それとも王都で職を探すか――そんな事を考えていた時、キョウタの耳に近くの男たちが大声で語る賑やかな会話が入ってきた。その内容は、あの『魔王』を倒したという女勇者であった。滅茶苦茶強くて優しくて、しかもナイスバディの超美人。俺もああいう恋人が欲しかった、など他愛もない会話が続く中、キョウタにとって非常に気になる言葉が飛び込んできた。


「またこの目で見たいよな~、勇者様」

「バカ言え、王様の報酬も地位も蹴って、『世界の果て』でのんびり暮らす決意をしたんだぜ?」

「おっと、そうだったぜ……でも格好良かったよなー!」

「なー、報酬は全額貧しい人寄付するだなんてさ!」


 仲睦まじく語らう彼らの一方、キョウタは男たちの言葉にあった『世界の果て』と言う言葉にはっとした。この『世界の果て』と言うのは、人々が住む場所から遠く離れた場所に広がるどこまでも続く荒れ地の事で、水も植物も少なく到底動物も人も住めないようなこの場所を魔王が本拠地に選んだという――もうその魔王は勇者によって倒されたが。


 だが、その女勇者がどこにいるか聞けただけでも、キョウタにとっては大いなる収穫だった。僅かばかりの手掛かりでも、彼にしてみれば十分すぎる成果なのだ。そして彼はじっと目を瞑り、精神を集中させながらその視界をこの王都から遥か遠くの場所へと移した。神から授かったチート能力を駆使し、女勇者の居場所を探し始めたのだ。そして、思ったよりも早く、キョウタは灰色の荒野の中にポツンと佇む1軒の小さな小屋を見つけた。


(……ここだ……!)


 人知の及ばぬ場所とされている『世界の果て』に存在する人工物。しかも中には人の気配がする。これは間違いなく、噂の女勇者が暮らしている場所だ!


 そう確信したキョウタは店を後にしたのち、すぐさま物陰に隠れて呪文を唱え始めた。彼の体の下には様々な紋章や文字が描かれた魔法陣が現れた直後、彼の姿はこの場から一瞬にして姿を消した。そして、次に彼が現れたのは、王都から遥か遠く離れた『世界の果て』と呼ばれる荒野、それもあの謎の一軒家の目の前であった。神から与えられたチート能力の1つ『瞬間移動』を用い、キョウタは一瞬にして長距離を移動したのである。

 そして、彼は恐る恐るその家の扉に近づき、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、覚悟を決めてノックをした。ごめんください、という丁寧な声と共に。しばらく経ち、中から女性の声が聞こえた。誰かしら、とりあえず出てみるか、などのやり取りが交わされたのち、ゆっくりと扉が開かれた。その中に広がっていた光景を見た瞬間、キョウタの顔、そして全身はあっという間に真っ赤になった。


「あら、どなたかしら?」

「来客だと……?」


 部屋の中にいたのは2人の女性だった。一方は真紅の長い髪をたなびかせながら健康的な肌を見せつける美貌かつ巨乳の美女。もう一方は、灰色の短い髪と濃い肌の色を全身からのぞかせる、真紅の髪の女性に負けないほどの美貌や胸の大きさを持つ美女。それだけでも、健康的な男子であるキョウタにとっては非常に刺激が強い光景であったが、更に彼の心を緊張させたのは2人の女性の服装だった。真紅の髪の女性は純白、灰色の髪の女性は金縁の漆黒と色こそ異なっていたが、彼女たちは揃って胸元と腰回り以外の全身を存分に露出させる、俗に『ビキニアーマー』と呼ばれる非常に大胆な衣装を身に纏っていたのである。


「あ、あの……」


 相手と目線を合わせようとすれば、必然的に彼女たちの胸元へ目が行ってしまう。ますます緊張してしまうキョウタの心を和ませるように、2人の『お姉さん』は笑顔を見せながら彼を家の中へと招き入れた。そして、そのまま彼女たちは自分たちの名を名乗った。真紅の髪と純白のビキニアーマーの女性は『ライティア』、灰色の髪と漆黒のビキニアーマーの女性は『ヤミーラ』と。


 2人の美人に顔を再度真っ赤にしながらも自身の名を名乗ったキョウタは、単刀直入に彼女たちに問い質した。貴方たちは『勇者』なのか、と。女性たちは互いに顔を見合わせた後、ライティアがその答えとして肯定の頷きを返し、笑顔を見せた一方、ヤミーラは頷きながらもどこか不貞腐れたような態度を見せた。そして、逆にヤミーラの方がキョウタに質問を投げかけた。並大抵の人間なら滅多に来られない場所にある小さな建物をピンポイントで訪れるとは只者ではない。お前はいったい何者なのだ――そんな単刀直入な問いに、キョウタは驚きの表情を見せた後、覚悟を決めて自分が訪れた目的を述べた。


「あの……ライティアさんにヤミーラさん……僕と、勝負してください!」


「ほう?」

「へぇ、どうして私たちと勝負したいの?」


「ぼ、僕は……魔王を倒すだけの力を持っています。だからこそ、魔王を倒した貴方たちと腕試しをしたいんです!」


 お願いします、と頭を下げた彼を見て、ビキニアーマーだけを纏った2人の美女、ライティアとヤミーラはしばし顔を見合わせた後、若干怪訝そうな表情をキョウタに見せた。この荒れ地をわざわざ訪れるのだから相応の実力はあるのは確かだが、こちらは2人である一方、キョウタは1人だけ。どちらか1人と戦った方が良いのではないか、と提案した。だが、それを聞いたキョウタは、自信ありげな笑みを見せた。神から与えられた力をもってすれば、相手が何人だろうと関係ない――。


「それなら心配いりません。僕が『2人』になればいい話ですから!」」


 ――分身魔法を使えば、全く同じ力を持つ存在が同時に幾らでも現れる事が出来るのだ。


 2人に増えたキョウタが再度頭を下げるのを見て、ライティアとヤミーラは揃って自信満々な笑顔を返した。彼から叩きつけられた挑戦状に受けて立つと言う決意を込めて……。

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