第5話 尾行
私は気になって仕方がなかった。
桜木真琴が何者なのか突き止めたくて仕方がなかった。
決めた。
桜木真琴を尾行しよう。
学校が終わり、図書委員の仕事がない日、桜木真琴の後を尾行した。
バレない程度に距離を取る。
桜木真琴は、小さなCDショップに入っていった。
「やっぱり音楽が好きなんだ」
私もCDショップに入っていく。
すると文化祭のステージでドラムを叩いていた渋いおじさんと話している桜木真琴がいるのが見えた。
「いらっしゃい」
私に気づいて声をあげた。
同時に桜木真琴が振り向いた。
しまった!!バレた!!
「あれ……。奏田……」
「あっ……。さ、桜木君」
私は、動揺して何も良い言い訳を思いつかなかった。
「こんなショボい店にわざわざCD買いに来たの?」
「おい、まこ。ショボい店で悪かったな」
渋いおじさんは、桜木真琴の頭を手でくしゃくしゃと掴んだ。
「ってー。痛ぇーよ。やっさん。ごめん、ごめんって。良い店。良い店。品揃えも良くて大変良い店ですよっ……と」
「……ったく。お客さん、何かお探しで?」
私に向かって、やっさんと呼ばれた渋いおじさんが言ってくる。
「あっ……。いや……特に探し物って訳ではなくて桜木君がこの店に入ってくのが見えて……それで……」
「おい、まこ。お前のファンだぞ。よかったなー」
やっさんと呼ばれた渋いおじさんは、桜木真琴の頭を更にくしゃくしゃと撫でる。
「だから痛ぇよ、やめろって。……奏田、俺に何か用?」
「あっ……えーっと……用って程じゃないんだけど。……あっ、えっと、その人って文化祭の時にドラム叩いてた人だよね?」
「そう。この店の店長。俺バンド組んでて、この人はドラム担当のやっさん」
「……へ、へぇ。そうなんだ」
やっぱりバンド組んでたのか。
そんな会話をしていると、また店の入り口のドアが開いた。
「ういーす」
「やっほー」
そこには、文化祭の時にベースを弾いてたお兄さんとキーボードを弾いていた女子大生くらいの女の人がいた。
「おっ、早いな。まこも来てたのか。俺と千佳ちゃん、下行って準備してるから」
「おう」
お兄さんと桜木真琴の短いやり取りがあった。
そう言うと二人は、店の奥にある階段を降りて行った。
「俺ら下で今から練習するんだよ。下は防音室になってて、楽器の練習するスペースになってるからさ」
桜木真琴が説明してくれた。
「へぇ、そうなんだ」
「お客さん。良かったら下行って練習の見学でもするかい?まこも女の子のファンに見られた方が練習張り切るだろうしな。わはははは」
またやっさんが桜木真琴の髪を触りながら言う。
「だからー!!やっさん。髪触るのやめろって!!」
「じゃ、じゃあ……ちょっとだけ見ていこう……かな」
もう見つかってしまったし、堂々と見学する事にした。
階段を降りて下に行き、防音室に入る。
すでにドラムとキーボードはセッティングされていて、ベースを持ったお兄さんとキーボードを弾く女子大生くらいの女の人がいた。
「やっさん。そういえばその子は?」
お兄さんが聞く。
「まこのファンだよ」
「えっ!?まこのファン!?あはははは!!そうかそうか。まこ、よかったなー」
そう言いながらお兄さんは、桜木真琴の肩をポンポンと叩く。
「あの……皆さんは、どういう関係でバンドを結成したんですか?」
私は、ずっと気になっていた事を聞いた。
「皆、この店のお客さんなの。皆がそれぞれにバンドメンバーを探しててやっさんにその事を話したら……」
女子大生らしき人が言う。
「じゃあ今探してる者同士で組んでみるやってみるかって話になって紹介してもらったわけ。でもドラムだけいなくてやっさんにやってもらってるんだよ」
続いてお兄さんが言う。
なるほど。そういう経緯なんだ。
どおりで年齢も性別もバラバラで共通点が全く感じられない訳だ。
その後、バンドの練習は続いた。
防音室の中でバンドの練習風景を見るのなんて初めてのことだった。
なんだかとても珍しい経験をさせてもらったような気がした。
「文化祭の時、ステージで演奏してたよね?あれはどうしたの?」
「ああ、あれは練習だよ」
「練習?」
「今度、ライブイベントに出ることになってるから、その練習として、うちの学校の文化祭に出てライブしようって話になったんだ。それで俺が、特別に外部から助っ人でバンドメンバーを入れてもいいですかって先生に頼んでオッケーしてもらったってわけ」
「そうだったんだ」
「ちなみにバンド名がまだ決まってないから、仮でMAKO'sバンドにしたんだ」
「へぇー」
その日、初めて桜木真琴の情報を沢山仕入れる事ができた。
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