第4話 文化祭

十一月になった。

私は、今だに桜木真琴が何を考えてるのか全く分からないでいた。

相変わらず休み時間は、教室で一人で寝てるし、図書委員の仕事の時もあまり話すことはなかった。

十一月といえば大きなイベントがある。文化祭だ。

文化祭当日に向けて、うちのクラスでも出し物の準備が進められていた。うちのクラスの出し物は、メイドカフェだ。ただしメイドになるのは全員男で、女子たちが化粧を担当して可愛く仕上げる。学校全体がお祭りモードになり、どこのクラスもワクワク感が漂っていた。


文化祭当日になった。

私は片付け担当。交代で自由時間があるので、クラスメイトの女子である森本と体育館で行われる出し物を観に行く事にした。

体育館に入るとステージ上でダンスを踊っていたので、立ち見でダンスを見た。

ダンスが終わり、司会進行役の生徒が出てきてマイクで……


「はい。以上、ピーちゃんファクトリーによるダンスでした。次は一年D組のMAKO's バンドです。張り切ってどうぞー!!」


「えっ!?D組!?……あたし達のクラスじゃん!!誰!?誰!?」


一緒に来たクラスメイトの女子である森本が興奮気味に叫ぶ。

その声の直後、ステージに現れたのは四人。四十代くらいの渋いおじさんがドラムのところへ。女子大生くらいの女の人がキーボードのところへ。二十代後半くらいの男の人がベースを持って出てきた。そして桜木真琴がギターを持ってマイクの前に立った。


「ええー!?桜木君!?」


森本が更に興奮気味に叫ぶ。


「ええ!?」


私も思わず声を出した。


「1、2、3……」


桜木真琴の掛け声の後、演奏が始まる。

曲は最近ヒットしていて、どこの店でも流れているカナリアという曲とアップテンポでノリが良いオリジナル曲の二曲を歌っていた。


なんだこれは……!!

桜木真琴をずっと観察してきた私は、驚きを隠せなかった。

いつも教室で寝ているだけの桜木真琴が今、文化祭のステージ上で歌っている。

しかも歌が上手い。

私は、桜木真琴から目が釘付けになって離れられないでいた。


曲が終わり、歓声と拍手が巻き起こった。

私の知っている普段の桜木真琴とは、違いすぎる。

桜木真琴は今、まさにトップアーティストのようにすら見えた。


「はい。以上、MAKO'sバンドでした。続いては……」


司会進行役の生徒が生徒がマイクで、次のグループの名前を読み上げて進行していく。


私はあまりの衝撃に、他のグループのステージを全く楽しむことができなかった。

自由時間が残り少なくなり交代になる為、教室に戻った。


「桜木君、凄かったね。楽器弾けるし、歌上手かったね」


森本が言った。


「そ、そうだね。ほんとビックリ……」


私は、その後も桜木真琴の事が気になって仕方なかった。


あのメンバーは誰?

渋いおじさんに女子大生に若いお兄さん。

全然接点が掴めない。全く推測することができない。


結局、ずっとモヤモヤとした気持ちが残る文化祭だった。

そして文化祭が終わった翌日、桜木真琴は、普段と変わらず、いつもどおり教室で寝て過ごしていた。

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