第3話 図書委員

夏休みが明けた。

クラス中を見渡すと、それぞれに色々な夏休みの過ごし方があった事が想像つく。部活動の練習に精を出して、こんがり日焼けしているスポーツ一色の夏休みを送った奴。塾に通って勉強ばかりしていた奴。とにかく夏をエンジョイして遊びまくっていた奴。


――桜木真琴。

あいつはどう過ごしたのだろうか……。

何か変わったところはないか確かめる為、あいつの席の方に目をやる。


「……やっぱり寝てる」


私は独り言を呟く。


「かなたん、どうしたの?」

「ううん。何でもないよ」

「それでねー、お盆はお父さんの方のお爺ちゃんの家に行ってたんだけどさー…」


私は何事もなかったように、クラスメイトと談笑した。


二学期が始まって委員を決める事になった。

まずは学級委員長を決める事になったが、これは満場一致でスクールカースト上位の男女二人になった。

新学級委員長の進行の元、他の委員を決める。

続々と他の委員が決まっていく。


「じゃあ次は、図書委員を決めたいと思います。希望する人いますか?」


これは勉強ができる地味目な奴が大体やりたがる。

どうせ梶原とか瀬野辺りだろうと、なりそうな奴を心の中で予想する。


「はい」


しかし手を挙げたのは、意外な人物だった。

その人物は、桜木真琴だった。


「じゃあ男子は、桜木が図書委員ね。女子は?誰かいない?」

「はい!」


思わず私は、手を挙げてしまった。

委員会の仕事なんて正直、面倒くさいと思う。

しかしそれを差し引いても、惹かれる魅力があった。

なぜなら今だに唯一、何を考えているのか全く分からない桜木真琴の正体を掴める絶好の機会だったからだ。

桜木真琴は、本が好きなんだろうか。


「じゃあ女子の図書委員は奏田って事で。皆、それでいい?」


結局、私は桜木真琴と一緒に図書委員をする事になった。

図書委員の仕事は、図書室の本を整理、管理をする仕事だ。


初めての図書委員の仕事。

――桜木真琴。これからじっくり観察してやるんだから。


いよいよ桜木真琴に話しかけてみる。


「桜木君ってさ、本好きなの?」

「……まあまあ」

「そうなんだ。どんな本読むの?」

「ミステリー。お前は?本好きなの?」


実はあまり読まない。

本当は、お前の正体を探る為になりたくもない図書委員になったんだよと言いたかったが、それだけは口が裂けても言えない。


「うん。私も……。まあまあかな」

「ふーん」


会話がこれだけで終わってしまった。

あまり本の話を広げると自分があまり読書をしてないのがバレそうなので、手短に終わらせた。

でも他に話題もないし……。

全然、会話が弾まない。絡みにくい。


「それじゃ図書委員の仕事も終わったし、俺帰るわ」

「あ……。う、うん」


図書委員の仕事がある日は、いつもこんな感じで桜木真琴は、仕事が終わるとさっさと帰ってしまう。

結局、図書委員の仕事を一緒にやったところで、桜木真琴の正体が分かる手掛かりを掴む事はできなかった。

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