第2話 中学入学
今日から中学生だ。桜の舞う季節。新しい出会い。期待を胸に膨らませて……。
なんていうのは、普通の中学生の考える事だ。
私は、別に新しい出会いに期待している訳ではない。
どうせ中学生なんて大したことない。まだまだ子供だし、変わった人間なんてそういないだろう。退屈だ。早く大人になりたい。
大人になればもっと変わった人達と出会える機会が増えるだろうに。
いっその事、変わった先生にでも期待するか?
……いや、教師なんてのもどいつもこいつも一緒だ。偉そうなだけだ。
昨日、わざわざ人間観察の訓練をしたのは、そこそこの中学生活を送る為だ。
新しい中学。新しい教室。新しい人間関係。
そこで私は、卒業するまでの間、そこそこ良い感じのポジションにいたいだけ。
楽しく人間観察ができればそれでいい。そう考えている。
だから昨日、人間観察の訓練をしてきた。
入学式が終わり、早速新しい教室に入った。
皆、隣の席の人間か後ろの人間と話している。
早速、お互いの探り合いが始まったな。
さて私も探り合いに参加するとしようか。
前の席に座っている女の肩をコンコンと叩く。
女が振り向いた。
「私、奏田葵っていうの。川口小から来たの。よろしくね。あなたは名前なんて言うの?」
「池野美香だよ。私は宇代小から……。よ、よろしく」
この子、緊張してる。
あまり知らない人と喋るのは得意そうなタイプじゃなさそうね。
なら話題を振ってあげて……
「へぇー、宇代小かぁー。いいなぁー。宇代小近くの河川敷で夏場にやってる花火大会、毎年行くんだよね」
「綺麗だよね。私も毎年行ってるよ」
「そうなんだ!じゃあもしかしたら、どこかですれ違ってるかもね!」
「そうだね!」
そして入学から一カ月が経った。
友達のグループがあちこちで出来始めていた。
このクラスのスクールカーストもおおよそ形成されつつあった。
スクールカーストの決まり方なんて、大体どこも同じだ。
スクールカースト最上位は、勉強もスポーツもそれなりにできて誰とでも仲良く話せるイケメン、美女だ。キラキラ輝いている。
次は勉強はできないけど、スポーツはできて、持ち前の明るいおバカキャラで愛される男や女。クラスの中心的な存在だ。
次に見た目は地味だけど勉強ができる男、女。テスト前になると人気者になる。
それから、いつもイライラしてて反抗的な不良タイプ。
最底辺は、勉強もスポーツも容姿もあまりパッとしてなくて、話すのも苦手で容量が悪くて不良の標的にされていじめられる奴。
そして明るい奴と大人しい奴の中間を維持して、器用に立ち回る奴。
私が目指すのは、このタイプだ。
このタイプが一番良い。
私は、別にスクールカーストの上位に立ちたいと考えている訳ではない。
変にグループが出来てしまうと、後々抜けるのが面倒になるからだ。
キラキラ輝いて目立つのも嫌だし、いじめられるのもごめんだ。
普通の存在でいたい。だから私は、器用に立ち回った。
クラスの全員がどこかの階層に属した。
……と思っていた。
しかし一人だけ例外がいた。男子の桜木真琴だ。
勉強ができる訳でもスポーツができる訳でもない。容姿は並。
休み時間は、いつも寝ている。不良の標的にされる事もなく、いじめられている訳でもない。無気力で何もやる気がない。
誰かと話す必要があった時、必要最低限のコミュニケーションしか取らない。
影が薄い奴だ。
人間観察が趣味であるこの私でも正体がイマイチ分からない。
話すきっかけがないから話した事はない。判断材料が少なすぎて判断できない。
でもまあ時間が経てばまあそのうち分かるだろう。焦る事はない。まだ一カ月だ。
そう考えていたが、結局そのまま一学期が終わって夏休みに入ってしまった。
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