第8話:エルフの森・聖地エルダートⅡ
翌日の朝、朝食を済ませたところでアリスが合流し、オレ達は再びエルフの森へと入った。
「さて、今日も探すわけだけど…」
「昨日は川沿いを調べたけど、それらしい場所は無かったよね」
「どうする? 闇雲に探しても見つかるとも思えないし」
「そうね…」
オレ達はこの森の地形に詳しくないため、アリスに判断をあおるのが一番だ。アリスは手を口元に当てながら考える。
「少し遠くなるけど、森を北に抜けると川の幅が広くなってるの。そこならあるいは」
「じゃあそこまで行ってみようよ!」
「そうね、行きましょう」
そうと決まると、オレ達は走って北へと向かう。灰病は徐々に体力を奪ってはいくものの、エルフは長い年月生きられるほどの生命力がある。そのためそこまで急いで探す必要はあまり無いとのことだが、やはりつらいのは変わりない。少しでも早く治してあげられればいいのだが。
やがて森を抜けると、目と鼻の先には確かに大きな川がある。
「あれよ。ひとまず昨日と同じで、川沿いを探していきましょう」
「わかった」
「了解!」
オレ達は目を凝らしてコルフラワーを探した。途中魔物なんかが出現したりと邪魔が入り、それに怒ったリニスが魔法で一網打尽にしたらアリスが心底驚いたり、なんてことがあったがどうにか探し続けた。
そして――――。
「あったーー!!」
「ほんと!? アリス!」
「ええ!! しかも大量にあるわ! これなら十分間に合うかも!」
「そうか、ならよかった…」
アリスとリニスが嬉しそうに大量に咲いているコルフラワーを採取する。そんな二入を見つつ、オレは不思議に思っていた。
(コルフラワーは一箇所に最大でも4輪程度…こんなに大量に咲いてるのはなんでだろう)
何か不自然なくらいに大量に咲いている気がする。たまたま生息地が固まってたというならいいのだが。
ふと、灰病がとある魔法であることを思い出し、リニスに尋ねる。
「リニス、そのコルフラワーを魔法で調べてくれないか」
「へ? 魔法で? …どうして?」
「ちょっと気になることがあって」
「ふ~ん、まあいいよ」
そう言ってリニスはコルフラワーに魔法を掛ける。見た目は特に変化はない。今リニスがやっているのは鑑定魔法といって、対象の情報を入手するための魔法だ。
やがてリニスは鑑定を終えて、う~んと呻りながら結果を伝える。
「特に変なことはないよ? 一般的なコルフラワー。魔法が掛かってるわけでもないし」
「…そうか。うん、ありがとう」
「結局何だったわけ?」
「いや、ちょっとこの量は不自然だなと思ってね」
そう言いながら大量に咲くコルフラワーを眺める。その視線に沿うようにしてアリスとリニスも見ている。
「確かにそうね。こんなに一箇所に咲いてる場所なんて見たことないし。というか冷静になって考えてみれば、そもそもこんな場所、今まで無かったはずなんだけど」
「え、そうなの? でもこんなに大量に咲くには、かなりの時間必要だよね?」
「そう、だから変だなって思ったんだ」
それこそ以前リニスが言ったように、魔法を使用しなければ不可能だが、もし使用していたならリニスの鑑定魔法で探知したはず。それが無いにも関わらず、これほど一気に咲いた理由はなんだろうか。
「うーん、この辺に魔力の類いは感じないし、これ以上ここで考えても仕方ないかも」
「そうね。とりあえずコルフラワーは確保できたし、戻りましょう」
「…ああ」
二人の意見に賛同しつつも、オレは一つ予想を立てていた。
(もしかして、あの人なら)
何時ぞやに話したとある魔女を思い出しながら、エルダートへ戻るのだった。
エルダートに到着すると、アリスはさっそくコルフラワーを薬師の元へ持っていった。後はそれを薬にして全員に飲ませれば、万事解決だろう。
「兎にも角にも、良かったね! これで心置き無く観光できるよ!」
「まあ完治するのに2日3日は掛かるから、もし観光するならその後だな」
「あ〜、そっかぁ。それまでどうする? いっそまた今度来ることにして、先に他の場所に行く?」
「んー、そうだなぁ」
近場への旅ならばそれでもいいと思うが、そうでないとこっちに戻るのが大変だったりするし。
どうしたものか考えていると、アリスがこちらへやって来た。
「二人とも、改めてお礼を言うわ。本当にありがとう。手伝ってくれて助かったわ」
「ううん、全然。見つけたのはアリスだし、私たちはちょっと邪魔者を退治したくらいだから」
「ふふっ、それが助かったって言ってるのよ。素直に受け取っておきなさい」
笑いながらアリスはそう言った。リニスもつられて笑いながら「わかった」と納得する。
「それで、二人とも本来は観光に来たのよね? これから周るのかしら?」
「うーん、それなんだけど、みんなが完治する前に動き回るのも違うかなって話してて」
「先に近場の観光地でも行こうか考えてたんだが、どこかいい場所知ってるか?」
と聞くと、アリスはそれならと提案する。
「森から出て東に向かうと、半日で到着できる距離に温泉があるのよ。もちろん公式の観光地だから、宿もあるわ。そこに行くのがオススメね」
「温泉!! シオン、行くしかないよ!」
「即決か…。まあオレも入ってみたいし、そこにしようか」
「決まり! じゃあさっそく出発しよう!」
「ああ。アリス、そういう訳でこっちには3日後くらいを目処に戻ってくるよ」
「ええ、私たちもその間に歓迎する準備をしておくから、楽しみにしていて頂戴」
「わぁ! ありがとう、アリス!」
リニスは嬉しそうにアリスに抱きつく。
「んぐっ…ちょっと、リニス。苦しいってば」
「あ、ごめんごめん。つい嬉しくて」
えへへと申し訳なさそうにしながらも笑うリニスに、アリスはやれやれと呆れていた。
「まあ何にせよ、こっちはもう大丈夫だから。気にせずゆっくりしてくるといいわ。何でもその温泉には、疲労回復に美肌効果が期待できるんだって」
「美肌効果…シオン、早く行こう!」
「わかったわかった。引っ張るなって」
美肌効果に敏感に反応したリニスがオレの服を引っ張る。やめて伸びちゃう。
「じゃあアリス、また3日後に会おう」
「またね、アリス!」
「ええ、また」
手を振りながら聖地エルダートを後にする。オレもリニスも、次の目的地である温泉を楽しみにしながら、ホウキに乗って空を飛ぶのだった。
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