第7話:エルフの森・聖地エルダート

 森の中をしばらく進むと、目には見えないが、確かに結界があるのがわかる。


「ここから先が聖地エルダートよ」


 そう言うとアリスはスッと腕を縦に振る。すると結界に人が通れるくらいの裂け目が出来たのだ。


「さ、入って」


 先に入っていくアリスに続いて裂け目を通ると、景色は一変して小さな村が見えてきた。


「……わぁ!」

「ようこそ、聖地エルダートへ!」


 聖地エルダート。別名エルフの里とも言われているが、ここはその名の通りエルフのみが暮らしている村。リンドと同じで農業が盛んで、特にキノコの栽培に力を入れており、その料理は絶品なんだとか。


 ただの村であればおそらく聖地、なんて名が付くことは無かったと思う。その名が付いた理由は、今目の前で起こっている光景に他ならない。


「綺麗……。これ、もしかしてホタル?」

「ええ。蒼花あおはなホタルよ。そして今の光景のことを…」

蒼の光祭ブルーパレード…だっけか」

「あら、よく知っているわね」


 村一面にいっぱいの蒼花あおはなホタルが宙を舞っていて、蒼い光の海のように輝いていることから、蒼の光祭ブルーパレードと名付けられ、これがあるからこそ、聖地と呼ばれるようになった。


「エルダートではこれが毎晩起こるのよ。だから観光に来る人も多いのだけど…」

「今は灰病のせいで入れることができないと」

「そういうこと。さあ、ここが宿よ」


 アリスが指した方向を見ると、大樹に螺旋階段が作られていて、その上を見上げると建物が建てられていた。


「って、木の上に建物があるよ!?」

「これもエルフの里特有の建築方法ね。こういう大樹を利用した建築が売りの一つでもあるのよ」

「へぇ、なんだかロマンがあるね!」

「ふふん、そうでしょうそうでしょう!」


 自慢げに胸を張るアリス。まあ自分の住んでいる場所を褒められれば嬉しいものだろう。


 そんなアリスをオレは微笑ましく思いながら見ていた。


「…シオン、何よその顔は」

「ん~? 何でもないよ」

「はいウソ! 絶対ウソ! “微笑ましいなこいつ”…みたいな顔で見てたの知ってるんだから!」

「なんでわかったし」

「やっぱり思ってたんじゃない!」


 オレってそんなに顔に出やすいのだろうか。前にも心の中読まれたことあるし。


「なんでもないって。それよりさっさと中に入ろう」


 そう言ってオレはそそくさと宿の中へと入っていく。


「あっ! ちょっと待ちなさいよ!」

「どんな部屋かなぁ、楽しみだなぁ」

「あんたはのんきね!?」

「そんなに叫んでて疲れないか?」

「あんたたちのせいでしょうがぁ!!」


 頭を抱えながら突っ込むアリス。元気だなぁ。


 そんなこんなで宿に入って受付を済ませる。


「では二人一部屋ですね。二階に上って一番奥になります。何かありましたらお申し付けくださいね」


 受付を担当しているのはミカという女性。


 アリスもそうだが、エルフ族は体つき、顔立ちは個々によって異なるが、金髪碧眼というのは共通しているのが特徴だ。


 そしてエルフは総じて美男美女。目の前にいるアリスもミカもかなりの美人さんだ。


 …正直、男性もイケメンが多いとなると、リニスがナンパでもされないかと少し心配だが。


 そんなことを考えていると、隣から何やら圧のかかった視線を感じた。見て見るとリニスがオレをジトーっと睨んでいた。


「…何を考えてるかはわかるが、それは無いから睨むのやめて」

「…ほんとに?」

「本当だ。というかオレはむしろお前が心配なんだが」

「私?」

「ああ、エルフのイケメンにナンパされないかってね」

「あはは、仮にされたとしても、一撃で沈めるから大丈夫だよぉ」

「いや、やめてよねほんとに。あんたたちならやりかねないけど、お願いだからやめて」


 本気で懇願するアリスに少しだけ同情した。ていうかオレも含まれてるのか。ちょっと心外だな。


「というかそんな心配しなくても平気よ。ここにいるエルフのほとんどはもう高齢か、既婚者ばかりだもの」

「あ、そうなんだ」

「既婚者って若い人も?」

「そうよ、エルフは基本的に同種間での結婚を進められているもの。他種族と結婚っていうのはあんまり聞かないわね」

「へぇそうなんだ。あれ、じゃあアリスも?」

「私はまだ相手がいないわ。あんまりいいと思える人もいなくてね」


 アリスの言葉を聞くと同時に、リニスはガバッとオレの腕を掴んでアリスを睨む。


「…シオンはあげないからね」

「人の恋人盗ったりしないわよ…まあ結構タイプではあるけれど、ね」

「がるるるるるるぅ…!!」

「ふふふっ。冗談よ」

「…はぁ。やれやれ」


 そんな二人のやり取りに呆れながら、ミカの持ってきたカギを受け取る。


「ふふっ。それじゃあ私はこの辺で失礼するわね。明日の朝またここへ来るから、起きたらここで待っててもらえる?」

「ああ、わかったよ。ありがとう、アリス」

「えへへ、ミカも、お世話になります!」

「はい、よろしくお願いします」

「ええ。それじゃ、おやすみ二人とも、ミカも」

「「おやすみ(なさい!)」」

「おやすみなさいませ」


 アリスとミカと別れて、オレ達はあてがわれた部屋へと入る。部屋の明かりには先ほど外で見た蒼花あおはなホタルが入っているランプが使われていて、全体的にかなりオシャレな雰囲気の部屋だった。


「うわぁぁ、すっごくオシャレ!」

「ああ、ランプも蒼花あおはなホタルが使われているみたいだし、なんだかお金持ちの部屋にいるみたいだ」

「あはは、そうだね! でもいいなぁ、こういうの」


 リニスは部屋のあちこちを見渡しながら、この空間を堪能している。


 オレはベットの上に座って足を休めることした。


「さっきの蒼の光祭ブルーパレードもすごく綺麗だったし、来てよかったね!」

「そうだな。まあ灰病の件があるから、明日から頑張らないとだけど」

「うん。絶対見つけようね、シオン」

「ああ」


 そう二人で決意した後、夕食とお風呂を済ませ、ベットに入る。


 リニスは疲れていたのかすぐに眠った。オレはそんなリニスの頭を撫でながら、明日は忙しくなりそうだと思い、疲れを取るため早めに眠るのだった。

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