第6話:エルフの森・灰病
「灰病…か」
灰病はとある魔法を掛けられると発病してしまう病のこと。誰が何のためにそんな魔法を生んだかは分からないが、掛けられた対象は肌の色を徐々に灰色にしてしまう。そして体力をゆっくりと奪っていき、やがては死に至るという。
ただ……。
「対処法はもうとっくに世に知れ渡っているだろう」
「うんうん。コルフラワーっていう染色によく使う花でしょう? あれを磨り潰して飲ませれば、2日3日で治るはずだけど」
「ええ。だから今問題なのは、そのコルフラワーがこの森に無いってことなのよ」
「…それは元からってことか? それとも」
「察しの通り、後から無くなったのよ。それも最近ね」
なるほど。だから誰も入れるなと村長は言ったのか。灰病は感染はしない。ただ治療方法がコルフラワーを使った方法のみである以上、もしエルフたちがまだ見つけていないだけで、実はこの森のどこかにあったなら、よそ者に採らせるわけにはいかなくなるから。
「だからこうして私も見張りをしているってわけ」
「事情は分かったよ。けどそれなら、オレ達も手伝った方がいいかもな」
「そうだね! どのみちエルダートへは絶対行きたいし!」
「……あなた達、本当にいいの? 正直助かるけれど」
「ああ、どのみち世話になるんなら、先に恩を返しておくのもありだろう?」
「……それ、恩返しは私たちの方になるわよ?」
「むっ? …まあどっちでもいいよ、とにかく手伝うってことでいいよな?」
「そうね、村長に何て言われるか分からないけど…手を借りるわ」
「じゃあ決まりだね! さっそくコルフラワーを探せばいいんだよね?」
リニスがそう聞くと、アリスはうなずいた。
「ええ、お願い。私は一度エルダートに戻って、村長に話してくるわね」
「ん、それなら集合場所決めておいた方が良くないか?」
「大丈夫よ、私たちエルフは感が良いから、あなた達の気配も覚えたし、こっちから近づけるわよ」
「ああ、なるほど」
アリス達エルフ族は気配にとても敏感だから、この森の中にいてもその気配を辿って対象を見つけることがたやすいのだ。
「ならそこはアリスに任せて、オレ達はとにかくコルフラワーを探そう」
「あいあい! じゃあアリス、またあとでね!」
「ええ、よろしくね。シオン、リニス」
アリスはそう言って森の奥へと進んでいった。オレ達はアリスの向かった方とは逆方向へと足を進めていく。
「シオン、本当にこの森にはもうコルフラワー無いのかな?」
「…どうかな、言ってもこの森結構な規模だし、まだほんとに見つかってない生息地がある可能性もあるけど。それより気になるのは、本来あるはずの場所に、最近無くなってしまったことかな」
「うん、急に生態系が変わるなんてこと、それこそ大規模な魔法でも掛けないと出来ないしね」
「…まあひとまず足を動かしますか」
「そだね。コルフラワーって確か、土が比較的冷たいところに生えてるんだっけ?」
「ああ、だから川沿いなんかに生えてることはよくあるな」
「じゃあひとまずそこを目指す?」
「そうしよう」
目的地を決めてオレ達は改めて歩き出す。
この大規模な森の中を当てもなく歩き回るのはかなり危険な行為だが、オレ達の場合はリニスのホウキで空を飛ぶことも出来る。アリスも相当気配を敏感に感じ取れるみたいだし、多少大雑把に動き回っても大丈夫だろう。
懸念があるとすれば。
「川沿いは既に他のエルフが調べてるかな?」
「かもしれない。それにその川も、どれくらい続いてるかによっては、今日だけじゃ探しきれない可能性もある」
「うーん、いっそ飛びながら探す?」
確かに可能であればそうしたが…。オレはそう思いながら上の木々を見上げた。
「流石に低空飛行は厳しいんじゃないか? 真上に高く飛ぶことはできそうだが」
そう言うとリニスも上を見上げて「確かに」と頷いた。
「じゃあ地道に歩いて探すしかないかぁ」
「…そうだな」
そうして日が暮れ始めた頃まで探し続けたが、一向に見つからなかった。今日はこれ以上は厳しいだろうと考えたところで、アリスが合流した。
「やっぱり簡単には見つからないのね」
「ああ、ひとまず川沿いは可能な範囲で調べたが、それらしい場所はなかった」
「アリス、灰病に掛かってる人達って、どれくらいいるの?」
「…確か十人ほど。今エルダートにいるエルフの総数でいえば少ない範囲で留まったけれど」
「これだけ探して見つからない状況で、十人分か。結構厳しいな」
そもそもコルフラワーは一箇所に三,四輪程しか咲かないのだ。故に少なくとも生息地を三箇所見つけなければならないということ。
「そうね…二人とも、今日は一先ずエルダートで宿を用意して貰ってるから、ゆっくり休んで頂戴。探索はまた明日にお願いするわ」
「うん、ありがとうアリス! あ、部屋は一部屋でいいからね!」
「え? けど…」
チラッとコチラを見るアリス。まあいいのかと思うのは当たり前だよな。
「ああうん、それでお願いするよ」
「…わかったわ。二人はその、恋人同士なの?」
「うん! もう3年くらいになるかな」
「へぇ。ねぇねぇ、エルダートに着くまで、その辺の話聞かせてくれる?」
「ふふーん、いいよいいよ、何でも聞いて?」
「…何でも聞いていいが、何でも答えるなよ、リニス。恥ずかしいんだから」
総じて女性というのは恋バナが大好物なのだろう。
二人はエルダートに着くまで、オレとリニスの馴れ初めについて赤裸々に語るのだった。
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